柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul

夜と霧

アンダーグラウンド2に引き続き本当にすごい本に二度連続でめぐりあった。すべての悩める人にお勧めしたい。いや、特に悩みという悩みのない人にもお勧めしたい。人間とは何か、自由意志とは何か、善悪とはということをえぐり出すほんとうに心を打つ一冊。ただのお涙ちょうだい感動ストーリーとは全く違う。目を背けたくなるような話が多いけれども、それを通じて得られるものはとてつもなく大きく深い。
筆者は心理学者。心理学者でありながらユダヤ人であった彼は第二次世界大戦中にアウシュビッツに送られ、そこで想像を絶する体験をする。そのような体験の中でも彼は心理学者として自分自身を筆頭とする非収容者たちの心の動きを冷静に観察し、そして誇りを失わない『人間』として気高く行動する。いつガス室に送られるか分からず、人間としての尊厳を踏みにじられ、餓死寸前の飢餓状態の中にあって現れてくる人間の本質は恐ろしくもあり、同時に希望の光も見えてくる。200ページもなく、新訳版ということもあって読むのに時間はそんなにかからないこの本を要約しライフハック10か条化するなど不可能だ。
自分が悩みを抱えていた10代の頃に巡り会えていればと思わなくもないけれど、あの頃は大学生協に並んでいたこの本に手を伸ばしながらも強制収容所をめぐる残酷な話を想像して怖れをなし結局レジまでたどりつけなかったのだ。あの頃から少しは成熟した今、この本と巡り会えたことに感謝。

さて、ひとつだけ蛇足。今繰り広げられているイスラエルのガザ侵攻、なぜ2000年の間迫害されて来た民族である彼らが逆にアラブの民に対して同じようなことをできるのか疑問だったのだけれども、それに対する一つの答えも見えてくる。筆者は収容前の心理ー収容生活中の心理ー解放時の心理と3段階に分けて書いているのだけれど、解放時の心理が興味深い。

とくに、未成熟な人間が、この心理学的な段階*1で、あいかわらず権力や暴力といった枠組にとらわれた心的態度を見せることがしばしば観察された。そういう人々は、今や解放された者として、今度は自分が力と自由を意のままに、とことんためらいもなく行使していいのだと履き違えるのだ。こうした幼稚な人間にとっては、旧来の枠組の符号が変わっただけであって、マイナスがプラスになっただけ、つまり、権力、暴力、恣意、不正の客体だった彼らが、それらの主体になっただけなのだ。

中学校の部活なんかでいじめが無くならない構造と似ているね。そのような苦難にある中で、いつか上に立ってそのようなもののない集団を目指そうとするのか、いつか上に立って同じことをやり返してやろうと思うのか。今、イスラエルで起きていること。もちろんそれ以外の地政学的なものうんぬんもあるのだろうけど、少なくともその背後にある精神構造についてはそういうことなのかもしれない。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

*1:極度の精神的緊張から突然解放された状態