柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul→Yokohama

危機管理

朝6時になんだか目が覚めた。しばらくベッドの上でぼーっとしていたらなんだかどこかで警報音がなりはじめた。コンドミニアムの外でどっかの車の盗難警報アラームでもなってるのかね。しばらくしても音がやまない。一応確認してみようと思ってドアを開けたらスゴい音でホールに警報音が鳴り響いている。さらに"Do not use elevator, use stairs to evacuate”と繰り返すアナウンスとフラッシュライト。なんだこれ、やばくね?
このコンドミニアムは地上40階を超える大型マンションである。ガスや火気の使用は禁止されているけれど、ここはフィリピン。電化製品から発火する事もあるだろうし、なにがあってもおかしくない。去年も働いてるビルで爆弾騒ぎで避難したしさ(ただの脅迫電話で実際爆弾はなかったけれど)。まだ寝ていた彼女を起こし、急いで着替えて財布とパスポートだけ手にとった。準備は手早く完了。下のガードに連絡して何事かを聞いてくれと彼女が言うも、もう一度ドアを開けると殺気立ったガードたちがダストシュート周辺に集まっているので好都合。Evacuationが必要かどうか、Fireかどうかだけ聞いたらしばらくなんだか分からないことを言っていたのだけれど、結局Water leakageだとわかた。つまり水漏れ。なんだ、マンション内なら溺れ死ぬ事もなかろう。
ほっと一息ついたものの、そのあといくらもしないうちに今度はものすごい異臭が部屋の中に入って来た。今度は何だ?腐敗臭というか硫化水素系の臭い。ちょっと尋常じゃない。あれもこれも持って行かなきゃという彼女をせき立てて、とりあえず財布とパスポート、カメラとMacと水着と、口に当てる濡らしたタオルを一枚ずつ持って避難。ここは30階を超えるし階段だと大変。火事ではないと判断して、エレベーターを使った。ロビーでふたたびガードに調査をお願いして、その間UCCへ。
とりあえず朝食をとってコーヒーを飲んで緊張感がようやくほぐれ、そのまま1時間ばかりプールで泳ぎ帰ってみたら全て解決。フロアに充満していた異臭もなくなっていた。どうやらダストシュートに大量の水が流れ込んだせいで臭いがやって来たみたい。後で調べてみたら硫化水素の人為的な発生源には下水処理場、ごみ処理場などがあり、食物中の硫黄が嫌気性細菌によって還元されて硫化水素が発生するそうな。最近は自殺にもよく使われているしね。今回これが致死量に至るまでの濃度だったかどうかはともかく、恐ろしい話。
なにはともあれなんともなくて良かった良かった。しかし、冷静に自分の判断を振り返ってみると、もっと迅速に行動するべきだったなあと反省。こういう高層ビル火災とかでは特に、警報が鳴ってもその警報を無視する事が大惨事につながるそうな。オオカミ少年症候群。それは分かっていたつもりで冷静に手早く準備したつもりだったのだけどまだまだ余計な事を色々している。

  • 警報を聞いて当初自分のコンドミニアム内の警報だとは思わなかった。
  • 準備はしたものの警報の内容を確認するまで動こうとしなかった。冷静に考えればガードだって混乱してるのだから電話で正しい判断材料を得られるなんて期待するべきではない。
  • 『外に出て暇だったらいやだから時間つぶしがいるな』なんて考えて、カメラにMacに水着を手元に揃えてから出た。
  • 彼女の方も大事なアルバムだとか、新婚旅行で買った時計を持って行こうとかいろいろ手間取っていた。
  • エレベーターを使った。今回は火事ではない事はほぼ確かだったけれど、それでも万一の場合エレベーターが止まったら死亡確実。

一つ一つの時間にしたら1−2分の事でしかないけれども、それらの判断の遅れがまとまって警報が鳴りだしてから実際ビルを出るまで10分はかかっている。万一火災だったりヤバいガスだったりしたらその時間が命取りになる事もあるだろう。せっかくなので二人で今後の行動ルールを話し合った。

  • 警報の出先をすぐに確認する。意外にドアが厚いのか、ホールでなっている警報と屋外の警報と区別がつきにくいので必ず確認。
  • 警報を疑わない。たとえ誤報だった場合にも、良い運動だと思ってめんどくさがらず避難する。警報が誤報である事を前提に行動しない。
  • 命あっての物種。とりあえず当座の現金もしくはカードだけ持ったら後はカギだけ締めて避難する。何事もなければ色んなものを持って逃げる必要もないし、何かがあった場合には命の方が大事。命さえ助かれば何が無くなろうと買えるものならまた買えば良いし、思い出だって作れば良い。
  • 階段を使う。去年24階から爆弾騒ぎで避難した時は翌日足が痛かったのだけれど、明らかに運動不足。運動せねば。
  • 自分たちがパニックにならず落ち着いて行動できた事が確認できたのは一つの収穫。ただ、動じなくなるのと危機意識を持たなくなるのは似て非なる事。危機意識は持つ。

プールからの帰りにちょうど他のコンドミニアムで火災訓練をやっていた。うんうん、消防士も居るし消防車もきてる。ってこの消防車マイクロバス程度の大きさなんですけど。はしご車があったってまあ届きっこないだろうけど、あれじゃ水も100%上層階には届かない。昼下がりの街に伸びていく影を見ていても、このビルの大きさとフィリピンの全般的な富とインフラの差が浮かび上がる。やっぱ自分がしっかりせねば。