柿の種中毒治療日記

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実験科学の精神

物理オリンピックへの前哨戦、全国物理コンテストの季節がやってきた。というわけで今回も会社の先輩(いまはもう転職されて某社のCFOである)に息子さんのレポートを見せてもらった。今回のお題は物体の衝突時の跳ね返りの規則性を実験によって求めるというもの。つまり弾性係数の話である。正確な測定ができるよう実験装置を工夫して作成し、色々条件を変えながら何度も試行をし、実験誤差の考察までしている実験レポートだ。いやあ、すごいね。実験科学の方法論というのを中学生にしてここまで理解してやってのけるとは。ぼくが中学生だった時分には全く思いもつかなかったよ。
面白かったのは実験結果。なんと物体の衝突速度に依存して弾性係数が変わるという結果が出ているじゃないか。大学教養レベルの物理学はほとんど記憶の彼方に飛んでいってしまったのだけれども、少なくとも高校物理では『弾性係数は速度によらない物体固有の数字』と覚えた気がするぞ。フィリピンに来る前に時間を見つけて読もうと買ってきた山本義隆の新物理学入門にも同じような記述があった。大学受験生の間では神扱いの山本先生のテキストにもそう書かれているわけだけれども、しかし実験結果は実験結果だ。
これは誤差なのか、空気抵抗やら何やらの影響なのか、それとも質点ではなく三次元サイズを持ち中身も詰まった物体であるボールの物性が絡むとそうなるのか。ネットを生かしてググってみたら昨今色々な研究で弾性係数が速度に依存することを実証している例がでてきた。速度が増すほど弾性係数が低くなるという現象が観察されるらしい。なるほどねえ。受験勉強というのはとかく単純化された系の中で単純化されたシナリオについてのみ学ぶわけだけれども、実際の自然現象というのはそこまで単純ではないよなあ。『教科書に書いてあるから正しい』ではなく、仮説を立て、実験を通じて証明していくというのは本当に大切なプロセスだ。仕事の中だって、『これはそういうものなんだ』と無批判に受け入れてしまっている事はどれだけあるだろう。実験科学の精神を生かしたいものだね。