柿の種中毒治療日記

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長引く慢性腰痛から逃れた意外な方法

去年の6月初旬に一週間立てなくなるギックリ腰になり、その後半年以上重い痛みに座るのも歩くのもままならなかった。日本で暮らしている間には鍼やカイロに何十回と通い、香港でも本場の指圧やらなんやら受けてみたのだけれどもちっとも良くならなかった。それがこの4、5ヶ月で劇的に回復してきた。今ではジムで走ったり、バイクをこいだり、水泳したりとかなり自由自在だ。その方法というのが今までの自分の概念と反するものだし疑似科学だと揶揄されるのも嫌で人に言うのが憚られていたのだけれども、5ヶ月たってみてサンドバックを蹴るなどという半年前なら想像するだに恐ろしいことをやっても全く平気なので、やはり効果があると確信するに至った。ちょうどその記念すべき1周年に腰痛のエントリ*1を見つけた事もあり、普段の日記とは違う感じで。Conclusion Firstでいくと怪しさプンプンなのだけれども、やっぱりConclusion Firstでいくと・・・

多くの腰痛・慢性痛は気のせいだ!

と言う身も蓋もない結論に尽きる。ここで多くのといっているのにはもちろん理由があって、腰痛の中には内臓疾患が理由のものあるから。だからまずは内臓疾患ではないかどうかは調べるべき。もうひとつ、『腰痛が気のせいだ』といっても『腰痛には痛みがない』と言っているわけではないのでそこは誤解しちゃいけない。腰痛は本当に痛い。ぼくもあまりの痛みに本当にメンタルにも参った。だから『気のせいだ』という結論に憤慨しないでほしい。

慢性の痛みは脳に刻み付けられた痛み

通常、けがやギックリ腰などの急性の痛みと言うのは数週間-数ヶ月でおさまるのだそうだ。急性の痛みと言うのは例えば骨折や筋断裂など物理的に障害がある場合。ただ、怪我が治っても痛みがずっと残る事が良く有る。これは実は脳が痛みを覚えているからなのだ。構造的に全く異常がなく、他覚症状がないのが多くの場合腰痛の特徴だけれどもさもありなん。

慢性痛の痛みは、ケガや病気で神経が傷ついたときに起こります。元の疾患が治ったとしても、神経は傷ついたままなので、痛み信号が乱発されたままになってしまいます。そのため、小さな刺激も大きな痛みに感じるのです。
しかも、神経が治ったとしても、再生を誤って他の神経と“混線”してしまうことがあります。たとえば、触覚の神経と混線すれば「触っただけ」で痛くなり、交感神経と混線すれば「天候の変化やストレスを感じただけ」で痛みを感じてしまうようになってしまうのです。
慢性痛とは、神経の誤作動で痛み信号が乱射される「意味のない痛み」だったのです。

脳に刻み付けられた痛みはただ『気のせい』というだけではない。神経の異常な興奮は筋肉の収縮を引き起こす。それをトリガーポイントといい、これがさらなる悪循環を引き起こす。トリガーポイントは脳に対して信号を送り、脳がそこを『痛い』と判断する。痛いと判断されたところの筋肉はさらに収縮し。。。と悪循環。

なお一部の整形外科医によると椎間板ヘルニアでさえ腰痛の真の原因ではないという(参考リンク3/参考書籍3/4をどうぞ)。腰痛の自覚症状が全くないグループと腰痛の自覚症状があり椎間板ヘルニアであると診断されたグループの双方でNMRをとってみたところ、ヘルニアが観察される確率に差がなかったとのこと。腰が痛いために腰痛持ちが腰部NMRを受け、そこでヘルニアが観察される事で医者が直接関係ないのに因果関係を付けて説明、それによって自分の腰痛に対して確信を持ち、腰痛心理サイクルを強化するというのがそこでの仮説である。サーノ博士の本には百例を超える例で証明されたと書いてある物のこれについては対照実験が十分なのか・統計的に有意なのかなど、真偽のほどは定かではない。n=1でしかないけど、椎間板ヘルニアになりかけでこれからは保存的治療(動くな!)をやっていきましょうと外科医に言われたぼくが動けているのだからこれも案外本当なのかもね。

慢性の痛みから逃れるには

というわけで、慢性の痛みというのは器質的なもの・構造的なものではなく、脳に刻み付けられた『痛みの記憶』が筋肉組織に筋肉収縮を起こし悪循環を起こしているわけだ。そこから逃れるにはその『痛みの記憶』を取り除く事が必要だ。そこで最近流行っているのがペインクリニックでのトリガーポイントブロック。トリガーポイントブロックと言うのはトリガーポイントに麻酔を打つ事で痛みの悪循環を物理的に断つ方法。体と脳をリセットし、痛みが『気のせい』であることを理解させるのだ。これと同じような事をある鍼の先生が言っていた。彼曰く、『痛い鍼』は痛みによって筋肉を収縮させてしまう。だからできるだけ痛みのない鍼をうつのだという。鍼には麻酔の効果も有ると言われているから、痛みのない鍼なら有効かもしれないね。

心因からアプローチする

ぼくはできればトリガーポイントブロックを受けたかったのだけれども、実はこれさえやっていない。行きたかったのだけれども、フィリピンでこんな進んだ事やってくれる医者見つけるにはぼくの英語力はまだまだだ。というわけで麻酔の力を借りるのではなく、リハビリおよび心因性アプローチを取った。

このような慢性痛の一部が心因性であることを示す良い(悪い)例がある。心理学者の河合隼雄村上春樹の対談を読んでいたら、カルトのイニシエーションを受けることで長年苦しんでいた体の痛みから解放される事があるという話があげられていた。例えば京大卒で当時史上最年少の司法試験合格者だったオウム真理教の青山弁護士は非常に重い腰痛で通勤もままならず、深く苦しんでいたそうな。そこで強烈なカリスマを持ち彼が依存できる教祖に出会い、これまで苦しんでいた腰痛から完全に解放されたのだという。イニシエーションと言うのは一種の強力なマインドコントロール手法で『痛みの記憶』を取り除くのには効果的だ。といっても腰痛がなくなったってカルトに入信するなんて失う物が多過ぎるし本末転倒だ。

NHKでもそのような特集を。 (NHKスペシャル 病の起源 第3集 腰痛、見たよ - finalventの日記)ストレスにより背筋の緊張が高まる、なんてまさに心因により身体反応が出る好例だろう。また夏樹静子さんの腰痛放浪記も面白い。文字通りありとあらゆる治療を体験した後で彼女は心療内科にかかることで重い腰痛から劇的に回復するのだ。ただやっぱりフィリピンで心療内科にかかるなんてありえなそうだし。。。ただこの辺の本を読んで、腰痛を克服するのに心因からアプローチするのは有効だろうと思うに至った。

というわけで自力でどうにか『痛みの記憶』を取り除くためにやったこと。

  • 慢性痛のメカニズムを完全に理解する。これが何より大切。結局これが心因性・脳の錯覚なのだと納得できない限り、この下にあげるアプローチは怖くてできない。夏樹静子さんの本に加えて、サーノ博士の本と加茂整形外科のホームページを読み、色々な角度から考えて一応納得するまでに至った。(追記を参照ください)
  • コルセットを外す。神戸海星病院で3万円もする特注コルセットを作ったのだけれど、これが痛みを長引かせる原因だった。よく『コルセットは筋肉を弱くするからつけすぎるのは良くない』と言われるけど、むしろ心理的な影響の方が大きい。医者に言われた期間を超えて、5ヶ月も6ヶ月も付けているとコルセット無しでは恐ろしくて何もできなくなってしまった。コルセットを付けている限り無理な体勢にはならないけれども、逆に『自分の体はスゴく痛みやすい』という自己暗示を常に自分でかけていたのだ。
  • 徐々に動ける範囲・できる運動を増やしていく。痛くて動けないのは『気のせいだ』という事を徐々に体と脳に覚え込ませていく。面白い事に『痛くなるだろうなー』と思ってた時には痛くなった動きが、『痛くなんてなりっこない』と思ってやってると全く痛みにつながらないのだ。そして実際に動いてみて痛みが出なかった時には、『やっぱり痛みが出なかった。脳の誤解からひとつ解放された』という正のフィードバックを自分に与えていく。ただ長年の怖れと痛みの悪循環の自動回路が出来上がっているので、いきなり無理をするのは望ましくない。ぼくの場合はコルセットを外して日々の生活を1ヶ月。水中ウォークと水泳でウォーキングに移るまで1ヶ月、ウォーキングからランニングまで1ヶ月、ランニングからバイク漕ぎその他の運動まで1ヶ月とのんびりと動ける範囲を増やした。
  • 自律訓練法を行う。自律訓練法と言うのは自律神経を整えるのにとても有効な方法だ。これが実は慢性痛にもいくつかの視点から有効。まず自律訓練法と言うのはリラックスするのにとても良い方法。ストレスやプレッシャーで興奮する神経を穏やかに落ちつかせることができる。ストレス・プレッシャーというのは体を戦闘態勢に持っていくために色々なホルモンを発生させて体も緊張状態にさせるから、それとうまく付き合えれば筋肉もリラックスできるのだ。また、自律訓練法と言うのは自己催眠と近い関係にある。自律訓練法は自分の手が温かい・重いといった『指示』を出す事で身体反応を誘発するプログラムなのだけれども、これをうまく使って『あー、腰が痛くなってきた。でもこれは心因性だからただの気のせい。まただんだん痛みが引いていく』とかやると実際その通りに痛みが出て来て消えるのが分かる。これをやっていると自分の腰痛が心因性だということが実感できてよいし、少し痛み始めたときにもこれをやると痛みを消す事ができる。

ということを1月以来5ヶ月間。実際には納得してコルセットを外した1月の時点でほとんど痛みが消えていて、あとはたまにスゴくストレスやプレッシャーがある時に思い出したようにうずく程度。そのうずきも自律訓練法で対処できているのだ。ただこの治療法の唯一の欠点はちょっとにわかには信じがたい事だろう。ぼく自身は高校の時以来腰痛持ちで、宗教関係以外はたいがいのアプローチを試した。鍼、整体、カイロプラクティックピラティスなどなど。それでもうどうにもならなくなって初めて、まあやってみるかという気になったのだ。なので信じられない場合はまずカルト以外のありとあらゆることをやってみれば良いと思う。


参考サイト

参考書籍

凄まじい腰痛体験記。ぼくはここまで色んな事をやっては見なかったけど、読むだけで心因性アプローチをとってみてもいいかなという気になる。

腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫)

腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫)

心理学の見地から。カルトに寄る治癒の例がのっていたのはこれだったか、アンダーグラウンド2だったか。別に腰痛の本ではないのだけれども、一読の価値有り。
村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)

村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)

腰痛は心因性だという主張をしているアメリカの外科医の本。外科医でありながらマッサージ/手術/理学療法を含む外科的アプローチを否定しているラジカルな感じの人。この本の監訳者が書いている『腰痛は怒りだ』というタイトルがあまりに疑似科学的で怪しく、その底本であるこの本も怪しいと思っていたのだけれどところがどっこいなかなか面白い。続編では彼の主張する心因性の症候群の範囲がものすごく広がっていて正直そこまで適用範囲が広いのか行き過ぎている気もするけれどね。
サーノ博士のヒーリング・バックペイン―腰痛・肩こりの原因と治療

サーノ博士のヒーリング・バックペイン―腰痛・肩こりの原因と治療

上記サイトのまとめらしい。実はこちらの本は未読だけれども、サイトを読む限りサーノ博士の心因性アプローチとペインクリニックのアプローチのバランスを取ったアプローチのようだ。
トリガーポイントブロックで腰痛は治る!

トリガーポイントブロックで腰痛は治る!

追記

2015年7月にNHKスペシャルで『腰痛・治療革命〜見えてきた痛みのメカニズム』という番組が放映されました。こちらでも『長引く痛みの原因が脳にある』ということが紹介され、認知行動療法が日本でも2012年に腰痛治療のガイドラインで強く推奨される「グレードA」に位置付けられたことが紹介されています。いくつかのビデオも紹介されており、「見るだけで腰痛に効果がある」内容となっています。

なお、2016年に8年ぶりにぎっくり腰に見舞われたのですが、呼吸法と自律訓練法を速やかに行うことにより発症から24時間でほぼ痛みを抑えられ、数日後にはすっかりぎっくり腰になったことを忘れられるほどに回復できました。
www.nhk.or.jp