柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul→Yokohama

上司がいなくても回る組織

The test of a leader is the performance of the organization when he/she is absent or after he or she departs.

今回の四半期決算はぼくが出張でオフィスを留守にし、直属の部下に完全に権限委譲をして行う初めての決算だった。決算の確認プロセスで数々の問題・質問がビジネスサイドから提示されたものの、内部期限までに指摘された問題はすべて直属の部下がうまくさばききってくれた。ぼく自身は何も口を出す予定はなかったのだけれども、たまたま向こうで時差ぼけのため夜中にメールを開けたところ一件のエラーを発見してそれに関しては指示を出して修正してもらった。しかしそれ以外には特にイシューアップされることもなく、会計部門のもっとも大切な要件である『時間通りに、重大なエラーのないFinancial Statementを作る』という結果を達成できたと考えていた。
ところが、今日になって二つの問題が発覚。一番上のリーダーシップ・ステートメントをぼくがいまだ実践できていないことを示す結果となった。一つは大規模な金額のミス・ポスティング。こちらは額が額なので議論の余地もなく修正。もう一つは金額ははるかに低くうちの社内修正スレッシュホールドぎりぎりであるため多少の議論が行われたものの、セグメント別利益の開示に影響を当たるプロセスエラーであり最終的には修正することとなった。このタイミングでの修正というのは社外への開示前なので対外的には影響がないのだけれども、ぼく自身の査定項目には大きな影響がある。個人としては非常にがっかりするところだけれども、済んだことは済んだこと。いかにこれから学び、次につなげられるかという事でしか挽回は出来ない。
今回の問題で注目すべき点というのは、どちらもミスも最初に部下に理由を聞いた時に『シンプルなヒューマンエラーだ』という返事が返って来たことだ。ヒューマンエラーというのは起こるべくして起こること。それをいかに検知し、防止するのかというのが鍵であるにもかかわらず、それがそもそも意識徹底されていない。これらのミスが『一人の能力の低い人間のポカ』ならともかく、二人の異なるアカウンタントによるミスだということも注目に値する。二人とも『最も優秀』だと高く評価されているアカウンタント達であり、その彼らによってミスがおこったのだから個人の能力云々ではなくプロセス設計の問題もしくは組織の気の弛みだと言わざるを得ない。さらに悪いことに二件のうち一件はまさに去年同じ問題がおき、プロセスの改善を指示したところであるにもかかわらず再び起こった。これはroot causeを潰す十分な対策が行われず、その不十分さを発見できなかった問題解決プロセス自体の問題でもあろう。(念のために言うと社内の総合的なプロセスデザインはしっかりできている。だからこのタイミングでこの二件が発見された。そこにマクロレベルでの内部統制の問題はないと思うけれども、その結果で評価されるぼくの部署のワークプロセスには改善の余地があるということだ。)。
今回の分析とアクションプランの策定は広い視点かつ詳細に、かつそれがすべて現場レベルで実行されるされるやり方でやらなければならない。

留意点:

  • 個人に問題を帰着させない。これは各人の能力の問題ではなく、ヒューマンエラーを回避できないようなハード・ソフト両面のプロセスデザインの問題
  • 政治的に慮った『当たり障りのないごまかしの分析』ではなく、全ての面から出来る限りファクトベースで正直な分析する。
  • 第三者目線からの『冷静な事実の羅列』にとどまらず、今後他の人が見た時に、自分のこととして彼らがとらえられるようなリアリティや人間くさい側面も盛り込む
  • ぼくが分析をしない。結局のところ、現場のことは現場でしかわからないし、解決策は現場レベルで必死に考えたものでないと個人のコミットメントを得られない。ぼくはそれをガイドするに徹する。

取り組むべきこと(とりあえず構造化せずランダムに羅列。内容は全て仮説・推測):

  • 起こったエラーは何か:『単純にすべきことを忘れてしまった』というところに留まらせず、もっと掘り下げて考えさせる
  • それを取り巻く状況どういうものだったのか: 当日およびその前後のワークロード/プライオリティ、各個人のメンタル状況などなどを幅広くとらえる。今回締め日前に問題が山のようにでてきていたことで、そちらのアドホックな問題解決に時間を割かれ、基本の確認が疎かになったのではないか。だとすると、どのようにすればその基本の確認がどのような状態でも優先順位1位として確実に実行されるように出来るのか。
  • なぜその『単純ミス』に誰も気付かなかったのか、既存のチェックプロセスの理解とどこに穴があったのかの総合的な理解: 一年前に同様な問題が起きた時に策定されたはずのセカンド・チェックがなぜ働かなかったのか。チェックプロセスが個人にたよりきりで第三者の視点によるセカンド・チェックが働いていないのではないか。二人ともベテランということは、慣れによるエラーかもしれない。慣れによるエラーをどうやったら防げるのか。
  • チームリーダーが通常はたしている役割はなんなのか: 各アカウンタントがやっているチェックに対して、マネージャーがどう関与しているのか。その中で今回の状況で果たされなかったものがあるのか。それともチームリーダーの仕事としてそもそもデザインされていなかったところに問題があるのか。
  • その上に立つぼくが通常果たしていた役割は何なのか:ドキュメント化されたプロセスではぼくはいなくても回るようになっている。ぼくは通常業務のテクニカルな面にはまったく携わらず、問題発生時のコーチング・意思決定・カスタマーコミュニケーションだけをやっているからだ。 しかし実際のところそれ以外に今回ぼくが決算に携わらなかった事で落ちている内容はないのか。例えば『チェックやりなおした?』と普段は彼らの席に足を運んで聞いていたけれど、このざっくばらんな会話が果たしていた役割はあるのか。
  • 前回のプロセス改善で改善されていなかった点はどこなのか、なぜそれがおきたのか: 文化的にも個人主義的傾向が強いため本来考慮すべきピアレビュー・マネージャーレビューまでがデザインに組み込まれずあくまで個人に頼り切りなデザインになってはいなかったか。さらにそれをチームリーダーに一任し、その上の上司であるぼくも確認していなかった。

これらに基づいてアクションプランを多角的に練って行かなければならない。失敗から学べる組織、そしてぼくがいなくても本当に回る組織を作らなければならない。

自分のための参考Link:

JR西日本安全性向上計画:脱線事故にソフト・ハード両面から分析。特にソフト面では参考になろう。=>

このサイトはただのセンセーショナルな部分しか取り上げていないけれど、元サイトと比較すると失敗をどうとらえるかということ自体のいい題材になる。こういう事故とその報道を通じて失敗をどう学びに行かすべきかというトレーニングを作れないものか。これ自体はちょっとセンセーショナルな内容過ぎるのであれだが、『失敗学』みたいな広く使える英語のテキストがあれば良いのだけれど。
=>16歳の少女が美術の授業中に石こうの中に手を入れてしまい指8本を失う - GIGAZINE