柿の種中毒治療日記

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The Road

帰宅してから映画を見に行った。The Road。原作はピューリッツァー賞を受賞したアメリカの小説であり、なんらかの理由で崩壊後の世界を生き残った父・子二人で南を目指す物語。最近『2012』や『ゾンビランド』といった同様の世界崩壊とその後の世界を描いた映画をいくつか立て続けに見たのだけれども、もっともリアリティがあり胸を打つ話だ。2012の様な大スペクタクルはない。ゾンビだって出てこない。だけれどもとても怖く、そしてそれを上回る感動がある。
文明崩壊後の世界では農業も行われている気配がなく、食料難が蔓延している。政府だってないし、人数自体まばらだ。希望だってほとんどない。生き残った人々はあるものは自殺し、あるものは武装化して他人を襲って食料を奪い、あるものは人を襲うだけでなく監禁してその人間を食らう。ゾンビはいったん死んだ『別の』生き物だけに恐怖感はあっても嫌悪感は催さないしそのゾンビをやっつけることにも抵抗はないけれど、彼らはみんな人間だ。そんななか父は子供を守りながら南を目指す。『火を運ばなければならないのだ』と。火というのは象徴的な意味で、優しさであり倫理であり尊厳だ。父は生き残るために他人を襲う道を選ばない。彼らを襲ってくる人間から逃げ、時には立ち向かうけれどもそこは決して譲らない最後の一線だ。
父は自分と息子以外誰も信じない。人を信じることは命の危険を意味するからだ。息子にとっては父親が全てだ。でもそんな中で息子は次第に自分の考えを確立し、他人に対する興味と思いやりを見せ始める。物語後半、自分たちから食料や衣服を奪った男を追いかけ、逆に優位に立って彼からすべてを奪いかえそうとする父の決断にたいして息子が見せる反抗はこの物語の核となる希望だ。父は他人を食いはしなかったもの、あの瞬間いままで守り続けて来た尊厳を失う微妙な立場に立たされていたのかもしれない。こんな世界なのだからエンディングも両手ばなしにハッピーエンドと言えるようなものではない。崩壊のさなかを描いた『2012』にはない、暗い、暗い崩壊後の世界。でも少なくともそこに希望はある。
といいつつ自分がこの状況に置かれたら?死んだ方が楽だろうなあ。

The Road (Movie Tie-in Edition 2009) (Vintage International)

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