柿の種中毒治療日記

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鈴木敏文の「統計心理学」―「仮説」と「検証」で顧客のこころを掴む

「統計心理学」とタイトルにはあるけれど、統計の本ではない。というわけでタイトルには偽りありな感もするけれど、内容自体はとても面白い。イトーヨーカドー、セブンイレブン・ジャパンをひきいる鈴木敏文さんとのインタビューをもとにした彼の経営論。ダイエーの中内功さんは『現場主義』で知られていたが、一方の鈴木さんは徹底した『データ主義』である。というのは『現場』には『本当のような嘘』があふれているからだと言う。べつに現場が嘘をついているとかそういう話ではない。現場感覚というのは必ずしも正しくないこともあり、ミクロに物事を見れば一見正しそうなことも、マクロに見るとまったく筋違いだったりするということ。
ひとつの面白い例。売上成績の悪い店頭で観察したところ、お店にやってくる顧客は50-60代が多いということがわかった。そこで50−60代をターゲットだと考え、より彼らに受けるような品揃えにシフトするべきだと考えるのが『現場主義』。一方、その地域のデモグラフィックなデータを調べてみると、実は20−30代が多く住んでいる地域だということがわかったとする。となると本当の問題は20−30代の顧客に魅力がない店作りをしているため、その年代の客を呼び込めていないということになり、打ち手は全く変わってくる。
データ主義とはいっても本社ビルの中でデータだけを相手に仕事をするというような話では全くない。あくまで顧客・買い手側目線をつらぬき、それをもとに仮説をたてて実行する。その結果を検証するためにPOSデータを使って統計的に物事を見る。記録のための統計ではなく、経営の舵取りをするための指針として統計を使い、そのやり方を組織全体に浸透させるのに大変な努力を払っている。こういうふうに仕事をしていきたいものだ。
いくつか備忘のための引用。

POSなどは入れようと思えば、どの会社も入れることができます。重要なのは、人間による“仮説・検証”です。明日の売れ筋は何なのか、次の新たな売れ筋商品はどれなのか、店舗ごとに現場で仮説を立て、それをもとに仕入れをする。仮説どおりの結果が出たかどうかはPOSデータですぐわかります。つまり、POSシステムは基本的に、仮説が正しかったかどうかを検証するためのものであって、POSが出した売り上げランキングの結果をもとに発注するのではないのです。ここが一番誤解されやすいところです。POSは“明日のお客”のデータを出してくれません。売れ行き上位三単品に替わって、四位、五位の商品が次の売れ筋になっていくかどうか、今日と違って明日という日は何が売れるかは、自分なりに常に問題意識を持ち、仮説を立てていかないと分かりません。 仮説を立てる際に、何よりも必要なのが情報です。情報には“経験情報”と“先行情報”の二種類があって、先行情報とは、これから先のお客、つまり、“明日のお客”の心理と動きを察知するための情報です。先行情報をもとに仮説を立て、発注を実行し、その結果、売り上げはどうだったかをPOSで検証する。これをひたすら繰り返すのです

POSデータの個々の商品の売れ行きの動きについても、何か新しい兆しはないかと問題意識を持ってみると、先行情報として活かすことができます。個数はさほどでなくてもすぐ売り切れる商品や伸びている商品があれば、これが次の売れ筋ではないかと自分なりに仮説を考え発注を増量してみる。そして、検証した結果を次の仮説に活かしていく。この繰り返しの中で発注の精度を上げ、成功の確率を高めていく。右肩上がりの一本調子で経験の多さがものをいった時代には“思いつきで仕事をするな”と言われました。今は先行情報に基づいた“思いつき”の方がむしろ大切な時代になっているのです

利益が取れるということは、われわれが提供する価値をお客さまに認めてもらえるということです。常に価値を高める努力をし、売り上げが下がっても利益は伸びるような方策で自己差別化を図っていけば、結果として、売り上げも利益も伸びるようになる

そして最後に。自分たちの仕事は半端に金があるからアイディアが出てこないってのはあり得るな。

われわれがセブン‐イレブンを始めたころは、モノも金もなければ、何も経験もない。だから、知恵を出さざるをえなかった。その原動力は、既存の概念を壊して、新しいものを創ろうという意欲です。それで、すべてを乗り越えてきた。セブン‐イレブンに創業の精神というものがあるとすれば、それは、壊して新しいものを創る。それだけです