柿の種中毒治療日記

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『大儲けのJALが「法人税ゼロ」税金で救済された企業の社会的責任は』についての考察

先週のAERAに引き続き、今週はダイヤモンド・オンラインがJALの納税問題を取り上げている。税金で救済された企業が税引き前利益を1866億円も稼ぎながら、法人税を納めなくてよいというのは何事か、という論調である。この話、どうもうさんくさい。(角がこみ内はすべて引用 大儲けのJALが「法人税ゼロ」 税金で救済された企業の社会的責任は|山田厚史の「世界かわら版」|ダイヤモンド・オンライン

 V字型回復した日本航空(JAL)の「納税問題」が波紋を広げている。今年3月期の純利益は1866億円。世界の航空会社が集まる国際航空輸送協会(IATA)全体の約30%の利益をたった1社で稼ぎだした計算になる。しかも本来なら764億円の法人税を納めなければならない。それが納税はゼロ。儲けは過去の赤字で相殺された、というのだ。

 高収益をバネにJALは今秋にも東京証券取引所に上場する。「日の丸航空復活」を思わせる快挙とも見えるが、税金で救済された企業が元気になっても税金は払わずに済む、これってどこかおかしくないか。払わずに済むのは昨年度分だけでない。今年も来年も、またその先も、9年間JALは納税を免れる。

(中略)

植木社長は「繰越欠損金はルールとして制定されており、JAL特有の支援ではない。業績だけ見て不公平とする議論は受け入れられない」と税金を払わないことは当然のこと、という姿勢だ。


AERAやダイヤモンド・オンラインの批判の論拠となっているのが繰越欠損金。繰越欠損金というのは過去の累積赤字を将来にキャリーオーバーできる制度のこと。例えばある会社が初年度に-10億円の損失を出して、2年目に10億円の利益を上げた場合には2年間での累積の儲けは0である。初年度は利益が出ていないので税金の支払いは0。そして2年目の10億円の儲けに対してもまだ累積で利益が出ていないので法人税を支払う必要はないという発想に基づく制度だ。別のパターンとして2年連続で利益0ならばやはり2年連続で税金0である。2年間累積すると、どちらのパターンの場合も累積利益0・税金0となる。これからわかるように過去の損失を繰越して将来の税金を減らせるというのはわりと公平な考え方だ。*1。記事ではJALの社長が繰越欠損金は法律で定められているから問題ないのだと強弁しているかのような書かれ方をしているけれど、別にそれは居直りでも何でもない。


さらに読んで行くと、面白いことを書いている。曰く、『粉飾会計と紙一重である不明朗な経理処理が、いまや宝の山になっている』とのこと。その粉飾会計の例として「機材関連報償費」という会計のやりかたがあがっている。

かつての闇が今は宝の山
 JALの経営を分析している会計専門家・細野祐二氏によると「粉飾会計と紙一重である不明朗な経理処理が、いまや宝の山になっている」と指摘する。それは密かに行ってきた「機材関連報償費」という日本の航空業界にだけある不透明な手口だ。

航空機には定価がない。JALがボーイング社からB747を買う時、例えば100億円の取引価格を帳簿には150億円と記載し、割り引かれた50億円を「機材関連報償費」として収入に計上する。その年の収入は膨らみ、見せかけの利益が大きくなる。一方で、その分だけ資産(この場合は航空機)が水増し計上される。

(中略)

 水増し計上は、リース会社を間に入れて社外に損金をプールするなど複雑な会計処理が行われてきた。こうした操作が負の資産となり経営内部に隠蔽され、ついに破綻につながったのである。闇の処理が、いまや税を免れる宝の山になっている、と細野氏は指摘する。


上に書いている通り、粉飾まがいの会計処理は過去のPLをよく見せるためのものである。水増し計上して利益が出ている年にはその分税金を払わなくちゃいけない。もしくは結果的に全体では赤字だったとしても、水増し分は繰越欠損金を減らす方に働く。過去に赤字が続いていたのはそれ以外の根本的なコスト構造に問題があったため*2、結果的にこの利益の水増し計上でもオフセットできなかったということにすぎない。

で、収入というのは貸方項目なので、当然借方には対応する何かを計上しなくてはならない。それが実際の購入金額を超えて過大計上された資産である。再生にあたり、実際にはそこまでの価値のない資産を減損もしくは一気に償却すると今度はその分PLで損を認識しなければいけない。ここででてくる損というのは基本的には以前PLを水増しして利益を過大に認識した分と対になっている。つまりここで出た損というのは別に未来の益をオフセットするものではなく、そもそも過去に認識した益をオフセットするものだ。

最初の2年間だけのPLのモデルに話を戻すと、一年目に利益を水増しして10億円の利益を計上したものの、2年目は減損しなくてはならなくて-10億円の損を出したようなものだ。この2年累積では税引き前の損益は0。ただし1年目の10億円に対してはすでに法人税を払っているけれど、2年目の-10億円の赤字でそもそも税金を払うべき利益がない*3。なのでこの赤字は繰越欠損金として3年目以降に利益が発生した場合そことオフセットして1年目に払いすぎた税金の分を3年目以降減免してもらうという感じ。*4 *5


正直なところ、この記事を読んでいても実際のところどういう処理をされているのかよくわからない。ただ、ここで槍玉に挙げられている繰越欠損金は宝の山でも何でもないとしか読めないのだよな。*6そもそも粉飾まがいの決算でありもしない収益を認識して経営実態を誤魔化していたことは責められるべきだし、リストラの憂き目に会った社員、債権放棄を強いられた銀行などの債権者や、株が紙くずと化したもとの株主は確かにかわいそうである。社会責任というのはもちろんあるのだろうけれど、こと法人税のことに関しては別に責められるような話ではなさそうだ。この件を盾に、一部の国会議員が赤字のためJALが運行を取り止めた地方路線を復活させろと発言させているようだけども、そういったコスト無視の横車が構造的な高コスト体質の大きな原因であったことを無視した本末転倒な言い分であろう。

再上場の話に関しても、再建のスキームとして企業再生支援機構が出資して株主となっているのならば*7、再上場によって新たなスポンサーを得て機構が株式売却益を得れば税金の無駄遣いどころか国に貢献していると思える。つまり税金を使って企業価値を高めた上でそれを再度売却して益を得るというストーリーに見えるのだけれどもね。

 増税の旗を振る自民党でも、国土交通部会航空問題プロジェクトチームが動き始めた。早朝の勉強会が何度か開かれ「JALの救済は国策として行われたことであって、自分の力で蘇ったと思っては困る。利益が出たら、まず世の中にお返しするのが筋だ」「地方空港を作ろうと汗をかいた関係者への配慮もなく、不採算路線をバッサリ切って、自分たちは大儲けして再上場というのは許しがたい」などという意見が噴出した。

『地方空港を作ろうと汗をかいた関係者への配慮もなく』ってさ。。。たいして使われもしない空港を作りまくって赤字体質を作り上げてきたのには政治家たちの責任も大いにある。そもそも税金を食い物にしているのは誰なのかという。

うーん。ぼくがなにか見落としているのであろうか。どこかにもっと詳細の分析した文献とかないものかしら。

*1:単純化のため現在価値は無視している。また繰越欠損金は未来永劫繰越せるわけではなく、期限がある

*2:たとえば国会議員のごり押しで不採算路線を大量に持っていなければいけなかったとか

*3:還付をしてもらうこともできる

*4:実際には会計が発生主義を取るのに対して、税法は権利・債務確定主義を取るので会計上の損益と税法上のそれは異なる。過去に過大に認識した会計上の利益を税法上の益金として認識してなかったなんて話ならさらにややこしくなる。ただその場合には欠損金を将来の利益をオフセットするのに使うなんて国税局が許しそうにはないけれど

*5:また損金算入・不算入の話なども絡んでくるから実際にはもっと複雑。

*6:細かいことを言うと、Valuationの基礎として、過去に起こってしまったsunk costは考慮に入れず、現時点から先のみのforward lookingで物事を評価するという視点がある。その視点に立てば確かにこの繰越欠損金は将来のキャッシュアウトフローを減らせる『宝の山』だと言えなくはない。そういうことを知らない一般の読者からすれば『宝の山』というのはちょっとミスリーディングではないか。この表現ではあたかも粉飾まがいの決算で無から『宝の山』を生み出して税金逃れをしているようにしか見えない。実際は機材関連報償費がらみの会計処理は過去と現在で期をまたがって利益と損をオフセットしているにすぎない

*7:そのへんよく知らない