食品偽装問題があちらこちらで火を噴いている。どこの会社も騙す意図はなく、過ちだということで片付けたいようだ。
不正のトライアングル
さて、内部統制の世界で有名なコンセプトに『不正のトライアングル』というものがある。不正が起こる背景にある三つの要素『動機』『機会』『正当化』のことだ。
今回のレストランの虚偽表示問題もこのトライアングルのフレームワークを当てはめるとわかりやすい。売上や利益のプレッシャーという動機。少なくとも僕には、もしかして多くの消費者には芝エビとバナメイエビの違いは分からないので『やったってばれない』という機会。そしておそらく『みんなやっている』という正当化。
不正の心理については以前少し書いた。
ずる-嘘とごまかしの行動経済学 - 柿の種中毒治療日記
ランス・アームストロングの告白 - 柿の種中毒治療日記
正直者はバカを見る?
『みんなやっている』というのは良くある正当化の理由だ。一人が始め、誰かが追随し、さらに誰かが追随し、どんどんとグレーなことを正当化するサイクルが出来上がって不正はエスカレートして行く。よく読んでいるICHIROYA (id:yumejitugen1)さんのブログにこういう記事があった。
(前略)
10人中9人。
潰れても正しいことをしようとしたひとは、たったひとり。
10人中9人は、嘘をついたのである。僕の商売で問題で考えても、おそらく、10人中9人。
お客様に頼まれれば、10人中9人はアンダーバリューをやるのではないかと思っている。
この問題で、謝罪しているレストランや百貨店に憤ることは自然なことだ。
だけど、これを機会に、あなたの仕事に、同じような理屈の「嘘」は、ほんとうにないのか、と自問して欲しいと。
そして、もし、そういう問題があるとすれば、誰でもないあなたが、それを正していって欲しいと。
それをやめることに、大きな犠牲を払う可能性がある、大きな勇気が必要だとしてもだ。
もちろん、そのことを僕自身も、自分のやっていることに、ほんとうに「嘘がないのか」と問い続けたい。そして、いつか、不燃木材の話のように、正しいことにかじりついて筋を通した人たちが、ひとり残らず救われるような社会になって欲しい。
この話の前段には、不燃木材の会社で10社中9社が不正を犯していたけれど、唯一正しいことをしていた1社は国の抜き打ち検査で救われたという話がある。そして、ICHIROYAさんが関わっている業界ではアンダー・バリューという違法行為をしばしば顧客から求められ、多くの同業者がそれをやっているという話がある。これに関しては、別に正直者が報われたということには今の時点ではなっていないようだ。では、正直者が最終的に報われるのはレアケースで、「正しいことにかじりついて筋を通した人たち」が報われて欲しいというのは夢物語なのだろうか。『そんな甘っちょろいこと・青臭いことを言っていたら生き馬の目を抜くような競争社会では勝てない』というのはよく聞く話であるけれども。
『正しいことを行う』ことは正しい!
ここでひとつ朗報がある。アメリカのCEBという会社はコーポレート・ガバナンスや企業倫理と企業の業績の関連などを調べ、企業のエグゼクティブ向けのトレーニングやリサーチを提供している会社である。CEBはそのリサーチの結果、長期的には『誠実さ』をカルチャーを持つ会社がそうでない会社をアウトパフォームすることを明らかにした。*1鍵となるリサーチ結果は一般に公開されている*2。その結果が下図。*3。従業員が『自分の働く会社は高い倫理観を持っている』と感じているトップ1/4の会社群の業績は、ボトム1/4の会社群の業績を16%上回っているのだ。
CEBでは二点をその理由としてあげている。まず第一に誠実さを重視するカルチャーを持つ会社は大きなリスクを回避しやすい。これは社内の現場の情報が隠されずに経営陣まであがってくるからだ。これは直感的に納得できる。そして第二に、誠実さを重視するカルチャーを持つ会社の方が生産性が高いのだという。これは面白い知見だ。
CEB Compliance and Ethics Leadership Council | CEB
短期的な業績をあげる為に不正を許容するという会社もあろう。でも、長期的な視点で見るとこれらは決して得策ではない。エンロンしかり、ワールドコムしかり。不正が明らかになることによって会社が受けるダメージは、不正によって得るリターンよりも遥かに大きいのだ。日本ではなあなあにすませるという文化もあり、不正すぐさま倒産ということもなかろう。それでも『けちな』不正によってこれまで築き上げて来た無形のブランド価値を毀損したことには変わりない。
「自ら顧みてなおくんば、千万人ともいえども我行かん」。というのは孟子の言葉。吉田松陰が好んだ言葉でもある。正しいことを貫くのはやり方さえ間違えなければ決して間違いではないのだ、と思えば勇気がわいてくるのではなかろうか。ここでポイントなのは「バカ正直」でも報われるという訳ではないことだ。正しいことをするならするで、やりかたがある。その辺の貫き方に関してはこの本が面白い。
- 作者: マーティ・リンスキー,ロナルド・A・ハイフェッツ,竹中平蔵
- 出版社/メーカー: ファーストプレス
- 発売日: 2007/11/08
- メディア: 単行本
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