柿の種中毒治療日記

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嘘つきアーニャの真っ赤な真実

日曜日。午前中は娘とスケートを楽しみ、昼は飲茶を楽しんで、午後は本を読みながらうつらうつら。今はもう亡くなられた、日露同時通訳者の米原万里さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読んだ。先日のKindle冬のセールで大幅割引されていたのでつい買ったのだ。

彼女の本、『不実な美女か貞淑な醜女か』をはじめて読んだのは大学の教養学部のときだったから、もう20年近く前になるのだな。理系だった僕にも、とても面白く読めた。もちろんそのころ、自分が共産党の支配する国で生活する日が来るなんて思いもしなかったのだけれども。その彼女の本をずいぶん久しぶりに購入したのだけれども、とても良かった。米原さんが少女時代をプラハでともに過ごしたギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカという3人の女性を巡るエピソードと、ソ連崩壊後の彼女たちの人生を通じて浮かび上がってくるさまざまなものがたり。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


『共産』社会を目指した人々が権力を握る過程でただ以前の権力階級を追い出して権力に居座ったという話。

レーニンって、ずいぶんいい暮らししてたのね

圧政と不公正に抗して貧民達を結集して権力を妥当した反乱者たちが、権力の座についたとたんに、以前の権力者と寸分違わぬことを繰り返す。だから、いくら反乱があっても、なかなか社会の仕組みそのものは変わらないのであった。

ぜーんぜん。今も彼らは、あなたのこれから訪ねるザハレスク同様、昔通りの特権を享受していますよ。それどころか、かつて国の財産だったものをドサクサ紛れに私物化し、市場経済の時流に乗っかって甘い汁を吸っています。甘い汁を吸い慣れた連中は敏感なんですね、うまい話に。


愛国心について。確かに、ぼくも日本を離れてからより日本への親近感が強くなった気がするな。エスノセントリズムに陥らないように気をつけているけれど。

異国、異文化、異邦人に接したとき、人は自己を自己たらしめ、他社と隔てるすべてのものを確認しようと躍起になる。自分に連なる祖先、文化を育んだ自然条件、その他諸々のものに突然親近感を抱く。これは、食欲や性欲に並ぶような、一種の自己保全本能、自己肯定本能のようなものではないだろうか。


民族主義・排外主義について。

野にあった頃の(共産)党は、心意気で団結しているようなところがあって、誰がどの民族に属するかなんて誰も気にも留めなかった。ところが、政権を奪取するや、たちまち国粋色を強めだしたんです。当時の指導者だったデジにも言われました。自分は気にしないけれど、国をまとめていくのに、民族主義は不可欠だ。

「西」に対する一方的憧れと劣等感の裏返しとしての自分より「東」、さらには自己の中の「東洋」に対する蔑視と嫌悪感。これは明治以降脱亜入欧を目指した日本人のメンタリティーにも通じる


最後に、内戦のまっただ中だったユーゴスラビアで米原さんがであったボスニア・ムスレムの少年の言葉。

異教徒に対して寛容にならなくちゃいけないんだ。それが一番大切なことなんだ。


とても良い本を読んだ。これは遠い異国の話だけれども、自分たち自身の話でもある。

そのあと、夕方から深夜までは再び仕事。ふと、お昼に飲茶レストランで流れていた曲を思い出した。あれ、「翼の折れたエンジェル」だ。といっても、中村あゆみさんバージョンではなく、小野リサさんのカバーだと思うけど。中国でこの曲を聞くとはね。それこそもう四半世紀前だ。