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柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul

頭の痛い書類保存のはなし

Business Organization Science?

ノーベル賞受賞者でもある京大の山中教授の14年前の論文の画像に疑義が呈され、その元データがないという話がニュースになっていた。

京都大学のiPS細胞研究所は、山中伸弥教授が14年前に発表した論文に不自然な画像があるとインターネット上で指摘されていたことについて、論文の内容が正しいことに疑いの余地はないとする調査結果を発表しました。


一方、画像の元となる実験データは示すことができず、山中教授は、会見で共同研究者のノートが保存されていなかったとして「心より反省し、おわび申し上げます」と謝罪しました

京大 山中教授が自身の論文巡り会見 NHKニュース


うむ。14年前か。ぼくも14年前は門前の小僧として分子生物学に携わっていた。当時、電気泳動の写真を改ざんすることを考えた事はなかったし*1、自分が携わっていた内容自体は残念ながらそんなに大きな話にならなかった。しかし、今仮に14年前のデータに疑義が呈されたとしてそれを元データによって証明できるだろうか。当時は実験の画像データをMO(光磁気)ディスクに保存するのが一般的だったけれども、いまやMOなんて衰退しきったフォーマットである。フォーマットが変わるたびに過去のデータを新しいフォーマットに移して保存するなんて考えただけでもぞっとするけれど、それをしていなければ下手をすれば『元データはあるけれどだせません』ということになりかねない*2。また、自分の過去を振り返ってみても、ハードディスクの中身が破損したり消えてしまった事も2−3回ある。クラウドRaidでバックアップがほぼ自動でとれる今はいざしらず、バックアップというのは本当に頭の痛い問題だった。デジタルデータだけならまだしも、手書きの実験ノートなんてことになるとそれを数十年分維持するのは物理的にも本当に大変だ。

ぼくは研究の世界を離れて会社組織で働いて13年。会社書類に関しては会社法や関連法でドキュメントの保存年限が定められている。たとえば、事業計画や予算編成、会計の支出に関する証憑書類の年限を調べてみたところ、日本では以下のとおりであった。10年の保存を要求される書類は結構多く、ものによっては『永久』保存が義務づけられているのだ。

こういった書類保存の仕事はえてして『価値を産まない』ペーパーワークとして優先順位が低くなりがちである。特に人の出入りが激しかったり、属人的なマネジメントをしている会社だと『すべての資料が前任者のハードディスクに入っていて、前任者が会社を去ったために記録が失われた』だなんてこともあろう。また、e-mailを書類のアーカイブとして使う事も多い。10年後に数代前の前任者のメール・アーカイブから該当するドキュメントを探し出すのは至難の業だと思う。

10年を超えて書類を保存しようとすれば、なんらかのシステマティックな書類保存ルールと書類保存のためのプロセス・専任のリソース(人・場所・時間)を確保しなければむずかしい。10年後にドキュメントを取り出すためにインデックスを作り・更新する作業も必要だし、古くなってなお捨てられない書類に関しては外部倉庫なども活用しなくては行けない。文書保存に関して、日本の数多ある会社組織ではいったいどのぐらいコンプライアンスがしっかりしているのであろうか。気の遠くなる話である。

話を研究の世界に戻そう。ぼくの記憶にある限り、科学の世界は会社組織とは比べ物にならないぐらい属人的だ。ぼくも実験ノートはつけていたけれども、会社と違ってスタンダードなフォーマットがあったわけでもないし、いわゆる内部監査の仕組みなどもなかったと記憶している。性善説で動いているうちにはそれでもよかったのだろうけれども、いざそれに疑義が呈されて性悪説でシステムを構築しなければいけないとなると莫大なコストがかかる。コスト削減を求められる現場からすると多大な負担だろう。逆にそれは一つのビジネスチャンスにもなりうるんだろうけれどね。*3



計画・統制・報告
1.事業計画に関する書類         10年
2.予算編成等に関する書類        10年
3.事業計画の運用状況報告等に関する書類 3年
4.業務報告、試算表に関する書類      永久

会計
1.会計勘定の記録及び整理に関する重要な書類 (総勘定元帳、現金出納帳) 永久
2.会計勘定の記録及び整理に関する補助元帳              10年
3.支出に関する証憑書類                      10年
4.財産の評価及び減価償却に関する書類               10年
5.原票、伝票及び集計に関する書類                 7年

出所: 文書保存期間の目安

*1:おそらく正しい記憶だと思うけれど、なにぶん14年前の話なので記憶は曖昧である。といっても捏造するだけのインセンティブはまったくなかったからおそらくこの記憶は正しいのだろう

*2:もしくは、そういう時のためにハードウェアを維持せざるを得ない

*3:残念ながらドキュメント・アーカイブに関してはぼくも四苦八苦している最中なので自分がすぐにこのチャンスをモノにできるアイディアおよびノウハウがある訳ではない。SAPやオラクルなどのERPソリューションで証憑書類をサーバーに保存するというサービスは有るけれど、原本は物理的に保存されなければならないのでまた別の話なのだよね。