読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul

図解 サムスンの経営戦略

土曜日。1日家でのんびり。先日、関空で見つけて買ってきた『図解 サムスンの経営戦略』を読了。ぼくはサムスンと直接競合する業界で働いているわけではないけれど、自分の業界の中の韓国企業の成長株の企業とも類似するところがたくさんあってとても参考になった。サムスンの経営の6つのポイントは以下。

スピード経営

スマートフォン・マーケットで後発ながら1年半で世界トップシェアをとるスピード。その裏にはアップルの二倍のスピードで新商品をマーケットに出す開発スピードの速さがある。それを支えるのはファースト・フォロワー戦略。市場で売れている競合の商品を徹底的にベンチマークするから開発が早い。さらに基盤部品の設計・製造が垂直統合されているためにコミュニケーションが速い。また、月・火・水・木・金・金・金、と呼ばれるハードな労働と軍隊カルチャー。開発チームは風呂・サウナ全て完備の寮に入り、一年間家に帰ることなく24時間体制で開発を続けることがあるというハードワークさである。コモディティ化することを前提にし、それを上回るスピードで新商品を出すという戦略とそれを実際にやってしまうケイパビリティには驚嘆する。パナソニックはかつて「マネシタ」と呼ばれたけれども、それをさらに上回る強烈さ。これは勝てない。

人材戦略

キーワードは『ひとりの天才が10万人を養う』。社長を上回る5-10億円という超高年俸を提示して、世界のトップクラスの開発者をスカウトするという。これには李会長のすごい考え方がある。曰く、『昔から5年後、10年後、何で食べていくかを考えたが、「これだ」というアイデアが浮かばなかった。世界の変化、技術の変化のスピードが速すぎてなにも予想できないからだ。そこで出した結論は、未来に活躍する優れた人材を探して、育てることだった。世界がどう変わっても各分野に天才がいると怖いことはない』。彼は自分自身が天才的なエンジニアというわけではないけれど、人を使うことで成果を出す天才的な経営者だと言えるかもしれない。

また、徹底的な成果主義とインセンティブ制度も特徴。常務の給与は2000万円前後、専務となると3000-5000万円、副社長で1億円と、昇進することのインセンティブは非常に大きい。これがハードワークを支える。ただし、常務以上の契約は一年更新で、成果が出ないと45歳で定年ということもある。結果を出すことを非常に強く求められる会社なのだ。

強力なリーダーシップ

オーナー経営のため、リーダーシップが非常に強力である。また、変化を厭わず、常に『危機感』を持った経営をしている。例えば1993年には日本人の経営顧問団に助言を求めたところ、厳しい内容の指摘を受けた。それを受け止め、オーナーのリーダーシップで「新経営」戦略を策定・実行に移した。これにより戦略・アクティビティシステム・カルチャー・組織を徹底的に変えた。また、10年後には「新経営2期」を宣言し再び経営改革を主導。リスクを伴う巨額の投資や新規事業への参入を会長自らのトップダウンの意思決定で進めてきた。

次のイノベーションを意識した経営

2012年において研究開発費世界6位(90億ドル)・売上高比率6.2%にものぼる巨額のR&D投資を行っている。これを上回るのはトヨタノバルティス・ロシュ・ファイザーMicrosoftのみ。また、『10年後には(今の)サムスンを代表する事業と製品はなくなる』という危機感をもとに、新たな5つの戦略事業ドメインを開拓することを決定。この分野に2兆円近くの投資を予定し、それによって5兆円の売り上げを狙うという野心的な取り組みを行っている。

徹底的に現地化を意識したグローバル戦略

例えばイスラム圏向けのコーラン付きの携帯電話、ロシア・中国向けの二つのキャリアを使える携帯電話、発展途上国のマス層向けに機能を削ぎ落とした廉価ラインなど、サムスンは現地のニーズに徹底的に合わせた商品を発売している。これを可能にする一つの投資が『地域専門家』育成プログラム。実はぼくの部下の夫もサムスンで働いており、このプログラムで一年間海外生活をししている。その一年間は韓国に帰ってくることは許されず、上司によってパスポートのチェックまでうけるのだという。一年間徹底的に現地での生活をすることで、その国のライフスタイルや文化、習慣、言語を研究するのが目的である。これにより80カ国、700都市へ派遣された地域専門家は4000人を超える。

世界最高額の予算を使うブランド戦略・デザイン戦略

1990年まで「低品質・低価格」であったサムスンのイメージを、「新経営」以降果断なマーケティング投資によって刷新した。例によってまずは海外から一流のマーケターをスカウトしてマーケティング・ケイパビリティを導入。オリンピックの公式スポンサーになるための巨額投資や、広告宣伝など、2012年には年間120億ドル(1.5兆円)のマーケティング投資を行い、世界トップ10ブランドへと躍進した。
また、機能の差ではなく、デザインの差にもいち早く注目。デザイン部門に膨大な投資を行い、サムスン電子だけでソニーの5倍にのぼる1000人のデザイナーを雇用。また、デザイン委員会を副会長の直結とし、デザイナーを役員クラスに登用するなど、デザイン主導の商品開発と経営へと舵を切った。


この本、看板に偽り無しで、一時間で読み終わる。読後の感想はというと『これは強烈だ』ということ。強力なリーダーシップを元に、ここぞという場所にアグレッシブな投資をし、結果に対しても非常に貪欲である。サムソンは韓国で最も就職人気の企業で優秀な学生をかき集めると同時に、3年以内の離職率もとても高い大変コンペティティブな環境だ。こういう企業に勝つためにはこちらもそれ以上に勝利に対して貪欲になるしかない。しかしこういう企業で働きたいかと言われると、うーむとなってしまうところが自分の限界か。