葉真中顕さんの小説5冊目は『コクーン』。これまで読んだ5冊の中で、もっとも感慨深く余韻の残る小説だった。
物語は終戦間際の満州からはじまり、1960年代の熊本、1970年台の関東のどこか、1995年の東京と、2011年の東北、そして現代へ。
色々な時間を前後し、いろいろな場所で、さまざまな人々をつないでいく。一見全く関係なさそうな人々の人生は少しずつ絡み合い、影響しあっている。金色の蝶がそれを繋ぐ。目眩く。
話の大筋はオウム真理教を思わせる新興宗教シンラ。それに絡め取られ、巻き込まれ、あるものはそれを自ら選び、人生が変わっていく。最後の種明かしは圧巻だった。これはありえた未来の一つの形。この人物は現実の世界のあの男。人生何がきっかけとなってどうなっていくのかはわからない。
窓から外を見る。台風前の不思議な雲を眺めながら、20年以上前の学生だった時に歩いた駒込の安アパートから霜降り銀座へのくだり階段を思い出した。
あれからもう20年がたった。いろいろな出会いと別れ、さまざまな偶然、自分がたまたま選んだいろいろな出来事と多少の幸運が重なって今がある。
いまこの瞬間こうやってこの本を読み、子供たちと交わす何気ない会話も何かの未来に繋がっている。幸あれかし。