柿の種中毒治療日記

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天下大乱を生きる

司馬遼太郎小田実による対談集。もう三十年以上前の対談である。世界情勢など今とは大きく異なるところがある一方で、現代にも通じるテーマも取り扱っていてなかなか興味深い。ただどうしてもベトナム戦争など当時の文脈が分からないのでイマイチ実感として良くわからないところも多々。一度では消化しきれなかった。しかしぼくは日本の近・現代史に本当に疎いな。高校時代は世界史選択だったし、第二次世界大戦あたり以降はかなり駆け足でやったので近現代は相当疎かだ。海外で暮らすようになって、明治維新以降の歴史を余りに知らない事を思い知らされる。こちらの人に『どうして日本軍は戦時中あれだけ酷い事ができたのか』と聞かれてもはっきりした考えさえ持っていない。
そういった質問に答えられるかどうかという話を置いといても、歴史に学ぶ事って本当に多い。この本ではノモンハン事件に象徴される日本軍の文化/組織作りのまずさにも触れている。今まで知らなかったけれど、ノモンハン事件での日本軍の損耗率は70%。近代戦では兵力が3割損耗したらすでに悲劇的壊滅状態らしく、7割という損耗率はまさに『ありえない』数字なのだそうだ。これだけ悲劇的な壊滅をもたらした理由は情報収集の軽視、現場と中央の意思疎通の欠如、合理的な判断や真実を伝える事が処罰の対象となる形式主義・権威主義精神主義などなど。日露戦争時代からの時代の変化をアップデートせずに、精神論を地でいってたわけだ。現場はソビエトの近代装備に比べてはるかに時代遅れの装備しかない事を理解していても、それを中央に伝えると強硬派の幕僚から腰抜け扱いをうけ左遷されたりしたそうな。さらに悲劇的な大敗を喫してもそれをひた隠しにしたのだという。その結果が戦略のsufficiencyがまったく考慮されずに精神論のみで行こうとする『特攻』など数々の悲劇を生んだのだろう。
ここまで極端な事はなかなか起きないにしてもこの失敗は組織を作る上では誰もが教訓にできるはずだ。愚者は経験から学び賢者は歴史から学ぶと言う。近現代史は証拠となる資料が多い分想像の域を出ない『物語』よりも参照できるデータが多いわけだし、こうやって近現代史から学べる事は本当はもっともっとたくさんあるはずだなあ。

天下大乱を生きる (河出文庫)

天下大乱を生きる (河出文庫)