柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul→Yokohama

日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか

日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ)

日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか (講談社選書メチエ)

火曜日。昼2時過ぎにオフィスを出て、シンガポール行きの飛行機に乗った。飛行機の中で仕事を済ませて、読みかけだった本を読了。

『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』という本。これがものすごく面白い本。戦時中の政府・軍の諜報活動のあり方と組織の力学、情報収集と意思決定のプロセスなどについて深く切り込んだとても面白い本。年明けに『ノモンハンの夏』という本を読んだばかり。『ノモンハンの夏』はどちらかというと感情的な筆致もあり著者の半藤さんの見方が色濃く反映されている。属人的な話も多く、どこまで真のイシューに切り込んでいるのかよくわからなかったというのが正直な感想。しかしこちらの本の著者の小谷さんは研究者のため文献を丹念にあたり冷静かつ客観的な視点が保たれているのでその分信頼が置ける。

当時の『軍の暴走』というのは情報収集能力の欠如によるものではなく、むしろ日本軍、特に陸軍のソ連に対する情報収集能力自体には特筆すべきものがあったのだという。ではどうしてその情報が活かされず、ノモンハン事件やその後の南進において数々の致命的なミスを侵したのか。情報を収集してバイアスなしの知見を活用することが重要であるにもかかわらず、上層部や作戦部門は情報処理のエキスパートから上がる情報をないがしろにし、自分たちの考えを補強するように情報を選択的に使ってしまったというのが一つの問題だという。また、上層部や作戦部門が情報部門を使いこなす術を知らなかったために、『情報部門は使えない』という悪循環を生み出してしまった。またその背後にある意思決定のプロセスの問題点や、組織構造の問題点、戦術的な情報活用と戦略的情報活用の差などにも多々触れられている。これは政府や軍で働いてはいなくとも組織のリーダーにとって非常に勉強になる本だ。