柿の種中毒治療日記

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マッキンゼー・プライシング

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)


休みを利用して再読。これまで何度も読んでいるのだけれども、そのたびに新たな気付きがある。日本で働いていたときには、理屈としては納得できるけれど実際のところどう適用してよいのか良くわからないというのが正直なところだった。デフレ=値下げというのが染み付いていたし、そもそもそこまでビジネスのことを良くわかっていなかったのだと思う。中国に来て価格政策の分野にはかなり力を入れて取り組んでいることもあり、ただの理論ではなく実際にかなり活用できるようになって来た。
この本の冒頭に「1%効果」というものが紹介されている。価格・変動費・売上数量・固定費が1%ずつ変わったときの営業利益の改善幅のシミュレーションだ。2003年度の東証一部上場企業のコスト構造に基づくと、価格を1%改善した場合の営業利益の改善幅はなんと23.2%。それにつづき変動費(16.3%)、数量(6.9%)、固定費(5.9%)。逆に価格を5%下げた場合にペイアウトさせるためには20%近い数量増加が必要だという試算がされている。とかく数量至上主義に陥りがちだけれども、簡単な損益分析をすれば価格を下げて数量を追っかけるのがいかに無意味かが分かるという好例だ。*1
どう考えても死への道でしかない価格競争が進むというのは全プレイヤーが囚人のジレンマに陥っているということもあるだろうけれど、それ以上にイノベーションの欠如の現れなんだろうな。たとえば接客や商品知識で差別化を図る会社がのびている、なんていうのは日本の消費者が求めているのは必ずしも価格だけではなく、やはり経験であり価値なんだということが分かる良い例だと思う。
喧嘩上等のカメラ店が「ど素人」に教わった商売の極意
値下げという「麻薬」を断つ勇気:日経ビジネスオンライン


価格競争は企業も疲弊する一方だし、回り回ってそれは家計にひびく。こういう本がしっかり売れて日本の会社が変わっていけばいいのだけれど。なお、この中のほとんどの論文はMcKinsey Quarterlyというサイトで英語の原著を読める。書籍には多少の日本のケースと書き下ろし論文が加えられているのだけれど、こちらはなんと無料。Pricing Warという古典的な名著も読めるし、もっと最近のケースも読める。
Articles by McKinsey Quarterly: Online business journal of McKinsey & Company. Business Management Strategy - Corporate Strategy - Global Business Strategy

*1:ぼくはコモディティ商品を扱っているけれども、価格弾力性が4にのぼるカテゴリーの話はまだ聞いたことがない。