柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul→Yokohama

『コンテナ物語』

コンテナ物語を読了。

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

グローバリゼーションに大きく寄与しているのは、ヒト・モノ・カネ・情報の国境を超えたやりとりを容易にしたテクノロジーだ。インターネットによって情報がボーダレスかつタイムリーに世界中を駆け巡ることになったことはそのひとつ。しかし、情報だけでグローバリゼーションがおこるわけではない。大量のモノの移動がより安く、より早くできるようになったこともまたひとつ重要な要件だった。これを可能にしたのが、大型の港でいまではごく当たり前に目にするコンテナ。このコンテナによって、物流がいかにかわったのかを丹念に調べた好著。

コンテナ以前の海上物流は、そのコストの半分以上を港湾での荷役に費やす労働集約型のビジネスだった。しかし、重い荷物を担いで船に荷を上げ下ろしする港湾労働者でごった返す波止場の光景はいまや映画の中だけだ。いまの海上物流は資本集約型で巨大なキャピタルがつぎ込まれた固定費ビジネスである。固定費ビジネスでとにかく重要なのはスケールとキャパシティを最大限に活用するためのスピーティなシステム。長さ数百メートルにも及ぶ超巨大コンテナ船に整然と積まれたコンテナは、その中に種々雑多なモノを積み込んで世界の物流をつなぐ。そして荷の上げ下ろしはすべてコンピュータによって指示がなされ、巨大なクレーンで行われる。コンテナ以前とコンテナ以後では、海上物流の効率性は格段にあがり、物流コストは劇的に下がった。結果として、このイノベーションは数々の製造業の工場の国内外の移転を促進した。企業が安い労働力を求めてオフショアへとでていくことを可能にした要因のひとつはコンテナリゼーションだったのだという。

この本が面白いのはコンテナリゼーションが様々な視点から描かれていること。コンテナの導入をめぐる実業家による競争と技術者によるイノベーション。規制当局との交渉。標準化を巡る争い。港湾整備をめぐる自治体同士の競争。そして、なによりも切実かつ面白いのが、港湾労働組合とのストライキを含む激しいやりとり。これまでの労働集約型の産業から、機械化・自動化を可能にしたこのイノベーションに伴って、彼らはまさに職と既得権益を失い、コミュニティさえも失ったのだ。コンテナリゼーションはまさに文字通り『破壊的』イノベーションだった。

このイノベーションに対して、港湾整備をする当局・企業・労働組合が同じ方向を向いた都市は世界の物流ハブとして繁栄し、そこを読み誤った都市は凋落した。このような栄枯盛衰は世界中で起こったのだという。思い返せば、神戸のポートアイランドには港の24時間二交代制化に反対する横断幕が掲げてあった。港湾労働をめぐる物語は決してアメリカだけの話ではない。アジアの物流ハブがシンガポール・香港・釜山に移り、神戸港が落日の一途をたどっていたのは残酷ながらこの大きな潮流を見誤ったからなのだろう。このような大きな変化の前には細かい戦術やインクリメンタル思考は全く役に立たないことを思い知らされる。それと同時に、痛みを伴う大きな潮流に際して大事なものは人を束ねていくリーダーシップなのだなと実感する。

[追記]

『神戸 コンテナ取扱量』でググってみたら、日銀神戸支店による『神戸港の質的変貌~集荷力低下と将来像』なるレポートがヒットした(http://www3.boj.or.jp/kobe/kouhyou/report/report131120.pdf)。これがとても興味深い。このグラフをみると凋落という言葉では足りないほどショッキング。世界各国の港湾のコンテナ取扱量が増え続ける中、神戸の取扱量は横ばいで順位に至っては1980年の世界3位から、2012年時点で世界52位である。
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そして、それ以上に衝撃的だったのはこちらの図表。
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1995年以降に新規に62港もの地方コンテナ港が設置されている。ぱっと数えたら、海に面している都道府県にはすべてコンテナ港があり、山口県に至っては5港。トラックや鉄道などの陸上交通コストなどいろいろ勘案する必要はあると思うけれど、一体どういう算段なのか。明確な戦略思考の結果ではなく、利益誘導型箱物行政の結果とかだったら残念至極である。以下、日銀レポートより引用。

また阪神淡路大震災の後、神戸港の立ち直りを複雑にさせた理由の1つには先の説明 のとおり「地方港湾整備」と言う新たな要因が加わっている。コンテナ港と言えば、神戸港が国内外で圧倒的シェアを占めていた訳であるが、震災後から地方コンテナ港の整備拡充が進み、現在の日本には地方コンテナ港が 62港も設置されるに至っている。
これらの地方港が上海港や釜山港と連携を強め、新たな輸送ルートを確立させる中で、 神戸港は「アジア大洋州のハブ港」ばかりか、「国内の貨物中継基地」としての役割も低下させている。地方港湾の利便性向上は地域活性化に資するとの評価も可能であるが、 諸外国では国際競争を勝ち抜く為の「選択と集中」が基本型であり、特定大規模港湾の集荷力を高める為、空港・鉄道・高速道など総合的な物流体制構築に知恵を絞っている。
―― この間、上海港と釜山港は大震災後に、北東アジア航路の盟主の座を確立している。

ところで、神戸港を始めとする主要5大港の競争力が低下して、世界順位も低下したことを様々な角度から説明してきたが、日本全体のコンテナ取扱量は世界第4位を確保 している事実は押さえておきたい(1位:中国、2位:米国、3位:シンガポール)。
特に、日本は全体として、釜山港を擁する韓国(5位)や高雄港を擁する台湾(9位) よりも物量は大きい。すなわち国家戦略として「グローバルハブ港」をどのように育て、「スーパー中枢港湾」や「地方港湾」を国内にどのように配備するかによって、最適な物流体制を敷くことが可能である。国際競争に勝つには「選択と集中」が必要である。