柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul

偽物天国で疑心暗鬼を募らせる

中国の水は不味い。というか、怖くて飲めない。多少経済的に余裕がある中国の人たちは水道に濾過フィルターをつけるのが常識である。うちでも昨年東レのトレビーノという浄水器を買ったのだけれども、そのフィルターをそろそろ交換しようかと思い立って買い物に行ってきた。買い物に行ったのは大手のスーパー。ここならきっと大丈夫であろう。
誰しも知っていることだろうけれど、ここ中国は偽物大国である。iPhoneの偽物、ブランドバッグの偽物、ブランド時計の偽物、ナイキやアディダスの偽物、洋服の偽物などなど。高い物のみならず、一個わずか数十円-数百円程度の品物でさえ偽物があふれるほど偽物だらけである。偽物商品というのは広告宣伝などの費用なしに売れるから、ある種の商売人にとってみれば先立つものがほとんどいらない超簡単な『ビジネス』なのだ。
偽物をどう見分けるのかというのは中国の消費者にとっては非常に難しい問題だ。中国でも最近は富裕層が増えてきて、彼らの本物志向は大変なものだ。ではどうやって本物を手に入れるかというと、基本的には小売店を信じるしかない*1。中国資本・外資を問わず、大規模なスーパーチェーンなら基本的には大丈夫に違いない、という願望も入り交じって大規模スーパーチェーンの成長は飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
偽物によって売上を奪われ、またブランド価値を毀損されるリスクに直面しているメーカー各社も偽物対策には力を入れている。例えば某ブランド靴の場合はホログラム付きのシールを外箱につけたりしてる。しかしこの程度の対策だと消費者としてはなかなか信じがたい。というのは偽物マーケットに行ってみると、偽物のホログラム付きタグを取り扱う業者までいるからだ。また、『本物の空箱』を買い取る業者もいる。彼らは買い取った本物の箱に偽物の中身を詰めて売る。そうなると外箱でも本物かどうか全く分からないという寸法だ。
さて、今日行った店で買った商品にも箱には本物を証明するシールが貼ってあった。

店頭ではあまりまじまじと見なかったのだけれども、家に帰ってから読んでみると東レ中国のウェブサイトのアドレスが書いてある。そこにアクセスしてシールに書かれた16桁の番号を打ち込むと本物かどうか確かめられるという仕組みだ。こういう仕組みは最近増えてきていて、ホログラムシールと比べると一つ一つの商品にIDをつけるから信頼性はより高い。まあ大丈夫だろうと思いつつ、興味本位でそちらのサイトにアクセスしてみる。トップページに本物かどうかを診断してくれるツールがあり、そこに早速シールの銀色にコートされた部分をスクラッチして16桁を入れてみる。これでこのシールに書かれた番号をデータベースと照合してくれるようだ。


さて、お楽しみのその結果はというと、本物との判定だった。最初中国語をしっかり読んでなくって、ステッカーに貼ってある別の16桁の番号を入力したため、偽物との表示が出てびっくりしたのだけれどぼくの勘違いである。東レさん、ジャスコさん、ありがとう。
通常偽物が混じるのは卸をとおる過程である。大手スーパーといえど、全ての商品をメーカーと直取りするわけではなく、卸を通しているケースも多い。卸マーケットというのは価格が勝負で、ここには玉石混淆雑多な偽物が入ってくるのだ。大手小売りチェーンの場合は偽物を取り扱っているといったような話が出回ると店全体の信頼が落ちるから死活問題だ。だからサプライヤー管理は厳格にしているはずだけれども、悪意のある卸は本物に一部偽物を混ぜたりもするから全品検品でもしない限り偽物をはじき出すのは難しい。*2その点、こういうふうに消費者が本物かどうか確認できるという仕組みはありがたい。といいつつ箱だけ本物で中は偽物という可能性とかは捨てきれないし、いくらでも疑心暗鬼にはなりうるのだけど。

今回のは各商品についたIDとメーカーのデータベースの情報をウェブサイト経由で照合して真贋判断するという仕組みである。*3。偽物業者が本物を買って本物の番号を入手し、偽物のシールに本物の番号を記載するという手口もあるのだけれど、最近はメーカー側だってその辺を考慮していて、例えば同じ番号を一定回数以上入力された場合はその番号は無効にしたりする。東レがそういうテクノロジーを使っているかどうかはわからないのでそこはもう信じるしかないところ。
ではシールにIDが書いてあり、ホットラインで真偽が確認されれば安心かというと、それもまたそうとは言い切れない。そういう高度な対応をしているメーカーに対する偽物業者の対応というのがさらにふるっている。なんと、ウェブサイトのアドレスやホットラインの番号を変えて偽シールに記載し、自前の偽のウェブサイトやホットラインに誘導した上で、偽物を『本物です』と保証するのである。例えばアドレスの中のKという文字をRに変えたようなサイトを用意するのだ。恐るべし中国。フィッシング詐欺というとインターネット世界のものだと思っていたけれども、この国には現物の世界でもフィッシングがはびこっている。海外生活もしばらくたち、だいたいのことはまあいいかで済ませているのだけれども、口に入るものを含めてどこまで偽物が出回っているのかよくわからないというのは難儀な話だ。
さて、ここまでいたちごっこが続くと本物とはなんぞや、という哲学的な問題にもなってくる。日本のネットショップやセレクトショップで売っているブランドものなんかも怪しさ満載で、中国の偽物マーケットをぶらぶらしていると日本人バイヤーもけっこういるのだという。彼らが偽者を大量に買ってどこで売るのかって、そりゃ現物の確認のできないネットが一番だ。タグとか箱とかは本物と瓜二つだし、『質の高い偽物』になると素人目には本物と全く区別がつかない。中国の多くの人たちはとても商売上手で、なんでもかんでも商売にしてしまうからこれだって彼らにとっては『起業』であり『ビジネス』なのであろう。しかし本当に何を信じて何を信じるべきではないのか。あー、なんかくらくらしてきた。
食品や水、医薬品なんかだと、メーカーがこういう『信頼』を担保する仕組みを作れればそれはそれで大もうけできそうなものだけれども*4

*1:高級品を買う場合には国外の正規路面店で買うというのも多いらしい

*2:また小売りの中には偽物と知りながら扱っている人たちも当然いるし、小売りが100%信頼できるとさえも言いがたい。

*3:某ブランド服では『一つ一つ固有の番号』が売りのタグを使っている。偽物マーケットでもそのタグはついているのだけれど、タグを見てみると全て同じ番号。この偽物業者の場合、タグは偽造しても番号を振り返るほどの手間はかけないようだ。

*4:直販とかは一つのアイディアだと思うけれど、こんどは直販サイトを偽った偽小売りが出てきたりするんだろうな。never ending storyである。