柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul→Yokohama

平成猿蟹合戦図

月曜日。久しぶりの三連休で心も体ものんびり。娘の友人宅から一晩預かったトイプードルのベンジーと散歩をしたり、リビングでソファーに並んで座ってぼーっとしたり。

朝から読み始めた吉田修一さんの『平成猿蟹合戦図』。舞台は歌舞伎町。身代わり出頭、脅迫、ヤクザ、、、そことなく漂う暴力の香りにドキドキしながら読んだのだけれども、幸いなことにあれよあれよと物事は良い方へ、うまい方へと転がり始めてハッピーエンド。そうか、これは猿蟹合戦だもの。蟹の子たちはきっと幸せになったのだろう。

 

平成猿蟹合戦図 (朝日文庫)

平成猿蟹合戦図 (朝日文庫)

  • 作者:吉田修一
  • 発売日: 2014/03/07
  • メディア: 文庫
 

 

 

七帝柔道記

先日図書館でなにかタイトルに心惹かれるものあって借りた、七帝柔道記を読了。

半分ほど読んだところでふと気づいた。あれ?これ読んだことあるぞ?

こういう時に読んだ本の記録をとっていると助かる。この日記の検索をしてみたところ、今から6年半前の2014年に読んでいた。しかも2014年に買った400冊のKindle本の中で一番面白かった本にさえあげている。

記憶ってあてにならないものだね。でもそのおかげでまた新鮮な気持ちで一から楽しめた。苦しみぬいて身体的にも精神的にも強くなっていく姿が眩しい。

 

七帝柔道記 (角川文庫)

七帝柔道記 (角川文庫)

 

 

 

 

 

コクーン

葉真中顕さんの小説5冊目は『コクーン』。これまで読んだ5冊の中で、もっとも感慨深く余韻の残る小説だった。

物語は終戦間際の満州からはじまり、1960年代の熊本、1970年台の関東のどこか、1995年の東京と、2011年の東北、そして現代へ。

色々な時間を前後し、いろいろな場所で、さまざまな人々をつないでいく。一見全く関係なさそうな人々の人生は少しずつ絡み合い、影響しあっている。金色の蝶がそれを繋ぐ。目眩く。

話の大筋はオウム真理教を思わせる新興宗教シンラ。それに絡め取られ、巻き込まれ、あるものはそれを自ら選び、人生が変わっていく。最後の種明かしは圧巻だった。これはありえた未来の一つの形。この人物は現実の世界のあの男。人生何がきっかけとなってどうなっていくのかはわからない。

窓から外を見る。台風前の不思議な雲を眺めながら、20年以上前の学生だった時に歩いた駒込の安アパートから霜降り銀座へのくだり階段を思い出した。

あれからもう20年がたった。いろいろな出会いと別れ、さまざまな偶然、自分がたまたま選んだいろいろな出来事と多少の幸運が重なって今がある。

いまこの瞬間こうやってこの本を読み、子供たちと交わす何気ない会話も何かの未来に繋がっている。幸あれかし。

コクーン (光文社文庫)

コクーン (光文社文庫)

 

 

 

凍てつく太陽

最近、続けて読んでいる葉真中顕さんの小説。今週末は『凍てつく太陽』を読了。終戦間際の北海道が舞台で、主人公は特高警察官。日本人、アイヌ朝鮮人徴用工など色々な人たちが絡み合う。そしてガダルカナル

スケールが大きな話で、話が二転三転。夢中になってあっという間に読みきった。陸軍がひた隠しにする「軍事機密」のオチには肩すかしを喰らった感はあるけれど、でもそれもまた日米の科学力の差を考えると妥当だったのだろうし、しっくりくるエンディング。

「案外、服みてえなもんかもしれねえよ、国だの民族だのってのは」という言葉が心に残った。

 

昭和二十年、終戦間際の北海道を監視する特高警察、通称「北の特高」――。
彼らの前に現れた連続毒殺犯「スルク」とは何者か。陸軍がひた隠しにする「軍事機密」とは。
そして、真の「国賊」は誰なのか? かつてない「特高」警察小説!

逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密「カンナカムイ」をめぐり、
軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は捜査に加わるが、「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影に濡れ衣を着せられ、網走刑務所に投獄されてしまう。八尋は特高刑事としての「己の使命」を全うするために、脱獄を決意するのだが――。民族とは何か、国家とは何か、人間とは何か。魂に突き刺さる、骨太のエンターテイメント!

 

凍てつく太陽 (幻冬舎文庫)

凍てつく太陽 (幻冬舎文庫)

 

 

 

ロスト・ケア

葉真中顕さんの『ロスト・ケア』を読んだ。介護の世界を題材とした社会派ミステリー。

僕にはまだ介護の実体験がないけれど、父母は祖父母の介護をしていた/している。電話越しに少し話を聞いて、大変そうだなと思っていたけれど、まったくその大変さをイメージできていなかった。

この小説の中で描かれる介護のシーンを読んでいると、介護の負担が家族にとってどれほど重いのかをひしひしと感じる。認知症によって性格も変わり記憶もあやふやになり、暴力さえありうる。その相手が他人ならば逃げれば良いのかもしれないけれど、親であればそういうわけにもいかない。

お金があればまた別だけれども、そこで必要なお金を出せる人がどれくらいいるのだろうか。試しに横浜市の有料老人ホームで認知症でも入居できる老人ホームについて検索してみたら、月額プラン40ー80万円という目の玉が飛び出るような金額が並んでいた。

横浜市の認知症でも入居できるホーム一覧|ベネッセスタイルケア

相手の同意なしに勝手に判断し、そういった介護対象の老人を殺して回る「彼」は殺人者としか言いようがないけれど、じゃあ相手の同意があったらどうなのだろう?その同意が本当に自発的なものであるかどうかどう担保するのか?

社会派ミステリーなのでミステリー要素もあり、見事に作者のミスディレクションに引っ掛かったのだけど、ミステリー要素以上に登場してくる人々の言葉が重い小説だった。

ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケア (光文社文庫)

 

 

 

W県警の悲劇

先日読んだ『絶叫』が面白かったので、同じ葉真中顕さんの『W県警の悲劇』を読んだ。帯にある通り、警察小説xどんでん返しの組み合わせの短編集。洞の奥、交換日記、ガサ入れの朝、私の戦い、破戒、消えた少女の全六編で、全て女性警察官が主人公。

叙述トリックが面白い。一章読んで、あれっ?となって騙されていたことに気づき、そこに戻ってまた読み直す。『破戒』以外は全て一本取られた。最後はなんというか、良い意味で唖然。

どうやら昨年BSテレ東でドラマ化されていたよう。ドラマ化で多少それぞれの女性警察官の役割は変更されているみたいだけど、面白そう。NetflixAmazon primeでも流してくれないかな。

W県警の悲劇

W県警の悲劇

 

 

 

県境をまたいでの移動の自粛解禁である。自粛解禁というのはいかにも日本的な表現だ。自粛というからには自分の判断でリスクをとって行動することになんの問題もないはずだし、『解禁』の対象になるようなものではないと思うけど。解禁だろうがなんだろうが、気を緩めるのではなく適切な行動を取り続けないといけない。

転職して日本に戻ってきて一番驚いたのはこの回りくどい言い方だった。『〜することを検討してください』というメール。これを読んだ上で検討し、自分の判断でやらないことにしたのだ。その結果、困ったことになった。そんな曖昧な表現をせず、『〜してください』『〜するように』でいいのに。なにかとSpecificityにかける表現が多いのだよ。自主性に任せているのか、単に責任の曖昧化なのかどちらだろう?

 

愚痴っぽくなってしまった。この2ヶ月半、自分の判断でほとんど家から出なかった。スーパーに行ったり、家の周りを散歩したりはしたけれど、そのぐらい。子供達も家にいる時間が長く、オンライン授業は続いていたけれどやはりほとんど家にいた。ぼくも1日3時間の通勤時間がゼロになって、家族がとても近く、仲良くなった。禍福は糾える縄の如し。

娘はそのおかげか本好きになったみたい。いまは銭天堂シリーズを夢中になって読んでいる。こないだまでは『おしりたんてい』だったのにね。今日それで銭天堂の続巻を買いに行った紀伊国屋書店で手に取ったのが『の』。とても綺麗な挿絵。『わたしの お気に入りのコートの ポケットの中のお城の いちばん上のながめのよい部屋の 王さまのキングサイズのベッドの……』とどんどん続いていく。一つのページの要素をズームアップして、どんどんミクロの世界に入っていく。『の』でつながって、その先、その先に続く素敵な世界。そして最後は。。最高の絵本。

『の』に触発されて、今から四半世紀前高校生の時に田舎の本屋で注文購入し、それからずっと大事にしている『パワーズオブテン』を久しぶりに本棚から引っ張り出してきた。『の』の世界と同じように、でもこちらはサイエンティフィックに10の25乗の宇宙から10の-16乗の素粒子の世界までの旅。久しぶりに読んだけれど、やはりわくわく。

日本の都会で暮らしていて何より嬉しいのは本屋に行ってたくさんの本に出会えること。最近はずっとAmazonで買い物するばかりだったけど、実物の世界にしかないものもある。感染対策に気をつけながら、実物の世界に再び少しずつ出ていきたい。

 

の (福音館の単行本)

の (福音館の単行本)

  • 作者:junaida
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: 単行本