柿の種中毒治療日記

Kobe→Manila→Guangzhou & Hong Kong→Seoul

魅力あるリーダー

今働いている会社のファイナンスのトップ4人のうちの一人がオフィスにやって来た。売上げ数兆円という巨大事業部を束ねるリーダーであり、会社全体のコントローラーも務める女性だ。そうなると当然仕事のレビューの準備が必要になる。最近経営陣へのプレゼンテーションが重なっていてめんどうだなという気持ちもあったのだけれども、その手間を大きく上回る気付きをもらえて有益だった。一言でいうと、『人をケアする』リーダーシップ。

会う手間を惜しまない

今回彼女は別件でアジアの某国を訪問するのが目的だった。その帰途でのフィリピン訪問である。会社専用ジェットで上司と一緒の旅程であり、直帰するのが当初の予定だったにもかかわらず、どうしてもここに立ち寄る意味があることを力説して半日予定を延ばしてまで訪れてくれたのだという。数百人を超えるアカウンタントが働くオフィスだからコントローラーの彼女にとって大事な場所だ、という理由だけではない。コントローラーになる前の10年間を見ても彼女はもっとも精力的に・頻繁にフィリピンを訪れている人だ。
極端なことを言うと、事業を束ねるリーダーにとってバックオフィスは裏方的存在。コストセンターであり、ビジネスの意思決定をして行くプロフィットセンターではない。実際には会社のバックボーンなのだけれども、彼らの関心を集めることはふだんあまりない。しかしそこにも余分な労力を払って会いにくる。だから周りのアカウンタントたちも生の彼女のことを知り、親近感を持ち、もっといえば彼女のファンになる。労力を払ってでも正確な財務諸表を作り、彼女が偽りの財務諸表にサインすることがないようにしようと自発的に思う。

部下に関心を持ち、Recognizeする

彼女はぼくが会社に入った時に日本のトップだった。といっても直接働いた機会はほとんどない。ぼくが研修を終え日本に帰ってくる時に入れ違いで日本を去った。話をした回数だってそんなに多くない。ぼくがフィリピンで働いているということだって事前に知る必要も機会もないと思う。ところがタウンホールミーティングで手を上げて質問をしたら、質問に答える前に"Long time no see! xx-san!"と嬉しそうに声をかけてくれ、握手を求めてこちらにきてくれた。笑顔にやられたね。
彼女の立場と会社での歴史を考えると社内・社外で知り合う機会があるのは数万人を優に超えるだろう。そんな大企業のトップの一人が、新入社員で山のものとも野のものともつかず、わずかな接点しかなかった社員のことを覚えている。それはすごいことだ。聞くところによると彼女が日本にいた時にもしょっちゅう別のフロアに足しげく通い、地位や肩書きに関係なく気軽に声をかけ、心を配っていたそうな。だから人がファンになる。

『人が大事』という価値観

タウンホールミーティングの最後は彼女からこの組織への『チャレンジ』を三つ残していくというものだった。これまでの別の経営陣の例だと『コスト削減』、『さらなるイノベーション』、『業務範囲拡大』、『高いスキルの習得』などなど仕事上の課題を課されることがほとんどであった。ところが開口一番彼女が口にしたのは『Take care of yourself, Take care of each other』。こういう言葉を仕事の課題を延々語った上で最後に付け加える人はいるけれども、この言葉が何より最初に来るのだ。その言葉に込められた真実味は他の人とは比べ物にならない。彼女は昨年大きな病気をし、その時に自分の健康の重要性と自分を支えてくれる周りの人たちの重要性を痛感したのだと言う。でも彼女の場合病気になって初めて気付いたというパターンではなく、ずっとそれが彼女の信念だったことは明らかだ。
ワーク・ライフ・バランスを戦略として推進して行くというのは『仕事が何より優先』という次元に比べればはるかに進んでいる。でも、彼女からはそれは戦略といったレベルの話ではなく、もっと根本的な価値であるということがびんびん伝わってくる。人をいたわる姿勢が伝わってくる。だから人がついていく。

自分を大切にする≠仕事を重視しない

そのあとで20分間仕事のレビューをした。和やかな談笑から始まったもの、いざ仕事の話になるとさっと真剣な顔つきになり大所高所から物事を見た鋭い質問が飛んでくる。ソフトスキルの強さが印象に残るけれど、そういったハードなThinking skillだって当然持ち合わせている。結果に対しても強い執念が伺えるし、タフでリスキーな仕事に挑んで来た結果いまのポジションについているのであって、決して仕事に手を抜いているわけではない。ライフを重視するということと仕事の上で甘い仕事をするというのは全く無関係だ。

リーダーの資質には色々あるし、強みも人それぞれだろう。知・情・理のどれも疎かにしてはならないな、と当たり前のことを再確認できた。