今日でバンコク旅行はおしまい。昨晩はタイのもう一つの夜の魅力ムエタイを見に行ってきました。ニューハーフショーとは全く別の熱さ。
ムエタイはタイの国技。ぼくが初めてムエタイを知ったのはゆでたまごの蹴撃手(キックボクサー)マモルというジャンプの漫画だった。背面跳びではなくベリーロールを得意とする走り高跳びの選手マモル。その彼がムエタイに目覚め、兄の命に90日のリミットを課した仇敵ニシキヘビ会のボクサーと人間離れした戦いを繰り広げる。ベリーロールを得意とするマモルはその驚異的な跳躍力を生かして人間離れした敵のムエタイ選手と戦うのだ、なんていういかにも『ゆでたまご』な漫画だった。ジャンプによくある『待ってろよ!大ボス』的な突然の終わりかただったのだけれども、格闘技に対して興味のないぼくの心の中にムエタイを見てみたいという密かな願望が宿ったのは実はその漫画のせいだったのかもしれない。20年経った今でもこの漫画のことが思い出せちゃうのだもの。
前回10年前にタイを訪れた時にラジャダムナン・スタジアムに行きその願望は果たされたかと思っていたのだけれども、今回もどうしてもムエタイを見に行きたくなってしまった。そこで思い切ってラジャダムナンと並ぶもう一つのムエタイの本場ルンピニー・スタジアムに足を運んで来た。外国人のリングサイド席はひとり1900バーツ。かなりのぜいたく。
試合開始前の踊り、ワイクルー。この踊りには神に勝利を願う意味があり、試合前の闘争心を高める効果があるらしいけれども、両手をぐるぐる回す様子はちょっと愛嬌がある。
試合は一試合5ラウンド。軽い階級の選手たちは中学生ぐらいだろうか、幼い顔立ちだけれども、キックの音は半端ではない。ムエタイは実力伯仲の選手をマッチアップさせるためあまりKOはないらしいのだけれども、第3試合は最終第5ラウンドのラッシュでKO勝利。会場の盛り上がりがすごい。
リングの上だけではなく、リングサイドの模様も必見。セコンド席にはトレーナーと、同じジムの選手たちが並び、真剣な表情でリングを見つめる。キックや膝蹴りが入るたびに体を大きくのけぞらせ、大きな声で盛り上げる。多くの場合貧しい家庭出身だという彼らの生活、もしくは人生はムエタイにかかっているのだ。その真剣な目は自分の中の何かを刺激する。
見物なのは観客席。ムエタイは庶民にとって真剣な賭博の対象。リングに立つ選手たちに勝るとも劣らないギラギラした目のおっさんたちが手をあげ激しく賭けのやり取りをしている。第一ラウンド、第二ラウンドは静かに選手を品定めしているおっさんたちも、第三ラウンド以降になると激しく体を動かし、声を上げ、会場中異様な熱気に包まれる。ぼくと彼女もラウンド前の選手の目つきや体つきから勝利予想。ところがぼくの予想はほとんど全滅。どうやら格闘技を見る目はぼくにはぜんぜんないらしい。
リングの上での熱いやり取りと呼応するようにぼくも激しい戦いを繰り広げていた。その相手は蚊。ルンピニースタジアムの中にはたくさんの蚊が飛び回っていて少し油断したらさされる。ようやく一匹仕留めるも、ふと我に返ってなんだか戦いのスケールの小ささに愕然とする。
激しいやり取りが続くリング上。ここに蹴撃手マモルみたいな人間離れした光景はない。でも真剣な選手たちと真剣な観客によって作られる空間は本当に熱い。長いバンコクの夜は更けて行く。