柿の種中毒治療日記

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サラバ!

西加奈子さんの『サラバ!』を聴き終えた。主人公の圷歩(あくつあゆむ)は1977年イラン駐在中の父母のもとテヘランで生まれ、その後エジプトカイロで小学生時代を過ごし、中学校以降は大阪で。そこで阪神大震災を経験する。その年には地下鉄サリン事件もあった。その後大学で上京。9・11のテロ。アラブの春。東北大震災。ぼく自身も同世代で、記憶に残る様々な出来事を共有している。その圷歩が37歳になるまでの半生記。

背が高くハンサムな主人公はモテるし、周りからも人気がある。スクールカーストで言えば上位のグループに属し、充実した学生時代をずっと送ってきた。一方その姉は変わり者で小学生のころからいじめの対象。高校には進学せず新興宗教(?)の巫女的存在となるもの、サリン事件の余波もあり自分の信じたものをことごとく失っていく。

その姉を忌避し、姉のことを無視し続ける主人公なのだけど、しだいに仕事も恋愛もうまく行かなくなってしまう。長じてからの主人公の思考は他人との比較によるものが多い。自分が他人と比べて上か、下か。自分の付き合う相手の『ランク』は?その相手と付き合うことで自分はどうみられる?

こういうのは苦しいだろうな。自分が自分であるというSelf esteemのような自尊感情が弱く、一方で他人と比較して優位に立つことでプライドばかりが肥大化している。自分が本気になってそれでも負けるような挑戦をしていないし、何かあっても自分ではなく周りのせいにする思考パターン。そして自分がいざ自慢できるものを失い始めるとどん底へ。少年時代や、中高生時代の語りと対照的で、後半は聴くのが辛くなってくる。そんな彼の前に再び現れた姉の言葉が印象的だった。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」

主人公は再び子供の頃を過ごしたエジプトに向かい、そこで自分の信じるものを再び見つける。これは喪失の物語であり、再生の物語。

 

 

ぼくは幸運なことに20代の前半にSelf esteemとPrideの違いについて指摘を受ける機会があって、他人との比較からは割と早いうちに抜け出せた気がする。でもそういう指摘を受ける機会がなかったら、もしかしたらぼく自身もプライドばかり高くて自尊心がなく、他人の目ばかり気にして自分の幹、自分の芯となるものを培えなかったかもしれない。本当に幸運だった。

今は人の親となり、子どもたちを育てる側でもある。子どもたちが自分が自分であることを大切にして、他人の目線や相対評価を気にし過ぎることなく、自分自身の幹をしっかりと育ててくれていったらいいなと思う。もちろん自分自身の幹もしっかりとしていたいけれど。そういう、『自分の在り方』を主人公圷歩とその姉の人生を通じて疑似体験できる、とても良い本でした。

 

余談

self esteemについてその昔日記に書いた記憶があるなと思ったら、15年前に色々書いていた。自分の言葉の選び方・ものごとの見方など青臭くかつ傲慢なところが多々あって読んでて恥ずかしいなと思いつつ、自分の思考や体験を振り返れる記録が残しているのは悪くないなと思った。
Self-confidence, Pride, Self-Esteem - 柿の種中毒治療日記